日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在136日目:群衆を前に①「書道体験会」

 学生たちの要望としては「日本の食べ物」の発表を望む声が多いとは知りつつも、準備とか時期とかの関係からちょっと先送り*1としまして、今回は毛筆を使った「書道」のワークショップを実施することとしました。なんでこれにしたかというと、先生から「墨絵をやってよ!」という要望があったためですが、絵心の皆無な僕にそれは酷というものでしたので、より無難なテーマに落ちつけました。

f:id:chihariro:20161123162925j:plain

 とはいっても、残念ながら僕は筆の扱いに長けているわけではありません。日本人ならおそらくほぼ全員が筆を使って文字を書くことを経験しているはずですが、それのメインとなる小中学校では、筆の扱い方についてまともなレクチャーを受けた覚えがありません。たとえばひらがなの「の」のようなカーブを書くときに、穂先は畳むようにして筆を運びますが、それをきちんと教わっていなかった僕は、筆をくるくると手の中で回転させながら書いていました。むろんそれで綺麗な字になるべくもありません。

 幸運なことに、中学国語の教員免許をとるためには大学で書道が必修でしたので、最低限の使い方だけは理解することができました。ただ、成績はBでしたし、もちろんこれまでにお習字を習ったこともありませんから人に見せられるような代物でもありません。

 こんなこともあろうかと水習字を持参*2していましたから、念入りに自室で練習を重ね、発表に臨みました。

 

 「かるた」*3と同様、2クラス分の実施でしたが、おおむね流れは同じです。

 まずは簡単にプレゼンとして書道の特徴、「書初め」の文化、アートとしての書道、道具についての説明をしていきます。アートのくだりでは、「英漢字」と書道パフォーマンスとを紹介しました。「英漢字」というのは、漢字の形を書きつつも、各パーツはその漢字の意味を持つ英単語のスペルで構成されている、という現代的な書道の形で、國重友美さんという方が広めているとかいうことです。またパフォーマンスにつきましては、YouTubeにいくつかあるなかから、尺がちょうどよかったものをうまく編集して使いました。会場の都合から、投影した画面がだいぶ小さかったですので、迫力に若干かけたのは残念です。ちゃんと見てもらえれば読めなくとも感動できるはずなのですが。

 次に実践ですが、いろいろ考えた結果、こちらで決めた文字を2つほど書いてもらい、それから各自で好きな言葉を書かせることとしました。「とめ」「はね」「はらい」をいちおう一通り経験してほしいので、題目は「日本」と「心」とを設定しました。この2つに関しては、プロがお手本を書いているところの動画を発見できましたので、書き方の提示もしやすかったのです。

 

 もちろん、デモンストレーションとして、下手ながらも僕が実際に書きながら説明したほうがよいことはわかっていました。けれども教室の設備が充分ではなく、書くためのスペース(机)を用意したらだいぶ狭くなってしまい、第一投影する道具もなかったのです。水書道を駆使する方法も考えましたが、こちらも場所の関係からやはりあきらめました。

 

 で、書く段に至っては、初めコピー用紙に練習してもらって、その後で本番書きとして半紙を配る方法をとりました。筆や半紙、墨はJFMから借りてきたものですので、数に限りがあります。入場者数が事前にわからなかったこともあって、慎重に数を制限する必要がありました。

 ところが、学生たちはものすごい勢いで紙を消費してゆきます。コピー用紙の方は学科からご提供いただいたものでしたが、次々にびっしりと文字で染められていくのでした。「日本」「心」それぞれについて本番の半紙も渡しましたが、どうも希少性が伝わらなかったようで、ほぼ練習の紙と同様に消費され、「もう1枚ください」とねだられました。

 「好きな言葉」については、やはり予想通りとでも言いますか、いろいろな言葉があって面白かったです。「栄養」(栄養士の方)とか「嵐」(アイドル)、「物語」「変態」などなど、各自で勝手に調べているのですが、日本語で書こうとする意欲を見られるのがやはり嬉しいのでした。

 

 2回目のコマでは、紙の配り方を少し変えて、初めからコピー用紙の枚数も制限することにしました。また「日本」「心」については半紙を渡さず、好きな言葉にだけ配給する形式に。これが功を奏しまして、どうにか最後までマテリアルは足り、授業としてはギリギリ成り立ったという感じです。

 こちらについては、直前のコマと比べて倍くらいの学生が来ていまして、筆は2人に1本とせざるを得ませんでしたが、これが却ってまとまりを生みました。考えてみれば、最初のコマはひとり1本あてがうことができてしまっていたために、各自がやりたい放題で収拾がついていなかったのです。クラスコントロールを考えると、活動にあえて不自由を科すのもひとつのテクニックと言えるかもしれません。

 それなりに楽しい会ではありましたが、ともかくクラスをまとめることができず、今までにないほど禍根を残す1日となりました。そもそも知識のない書道を取り上げたところで苦労は見えていそうなものですが、それにしてももっとやり方を工夫するべきでした。

 また、今回は時間の制約が厳しく、あまりTrivialな話ができませんでしたが、大学生相手ということであれば、アニメを紹介するのはけっこう効果的な手段ですので、名作『ばらかもん*4』を織り込んでもよかったかもしれません。

 

 終わってアンケートを見ますと、「楽しかったけど、ほんとうは筆の使い方を習いたかった」という声も。そこまで求められてしまうと僕は力不足としか言えませんので、申し訳ありませんが”Introduction”だから、と割り切ってもらうほかありません。

呉竹 半紙 水書き 水でお習字 半紙 KN37-10

呉竹 半紙 水書き 水でお習字 半紙 KN37-10

 

*1:日本食を作ろうと思ったときに、一番手軽なのは米を使ったおにぎりや手巻き寿司だと思いますが、フィリピンではちゃんと時期を選ばないと食中毒とかいろいろな問題がおこりそうで怖いです。

*2:参照役に立ちそうなもの #2(教具編)

*3:参照滞在114日目:わが身ひとつの秋にはあらねど

*4:僕はアニメだけ見ましたが、書道うんぬんを抜きにしても、心温まるよい作品だと思います。続編も是非映像化してほしいですが、メインの声優が実際の子供でしたので、成長しては声が変わってしまったことでしょう。残念です。