日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在114日目:わが身ひとつの秋にはあらねど

 軽い気持ちで「カルタなんか面白いかも」と発言したら、学科のFBで大々的に宣伝されてしまいました。たくさんの人に来てほしい、日本について知ってほしいというのはもちろんそうなのですが、その広告に見合うだけの準備ができたかときかれると自信がないわけです。過去の発表で言うと「盆踊り*1」並の規模とあって、気合としては充分でのぞみました。

 コマとしては1時間半のクラスを2回。それぞれ時間内にすべての活動を押し込める形になります。実践としてまだ至らないところはありますが、どんなことをしたかをできるだけ詳しく書いてみます。

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 「カルタ」といっても色々種類があります。

 近年人気を博しているのは『ちはやふる』の影響かと思います*2が、いわゆる一番伝統的な「百人一首」はハードルがかなり高いです。僕も中学高校と百人一首大会を経験していますが、その頃は文学に大きく興味があったわけでもなかったのでロクに暗記しませんでした。そのしわ寄せで、国文卒なのに諳んじることのできる歌は10を少し超える程度しかありません。

 日本語教育の場でもっとも親しまれているカルタは、おそらく「ひらがなカルタ」ではないでしょうか。札に大きくひらがなだけを書き、読みあげられたものをとっていくというような簡潔なルールで、ひらがなの練習とカルタ文化の紹介とを兼ねたアクティビティです。

 

 百人一首はあまりにも難しいので論外ですが、「ひらがなカルタ」では今回の取り組みとして面白みとかクリエイティビティに欠ける印象がありました。相手は大学生ですし、来場者は日本語履修者がほとんどだろうと思っていましたので、もう少し”高度な”ものを企画する必要があったわけです。ですので今回は、ただ既存のカルタを遊ぶのではなくて、まず自分たちで作るところから始めることにしました。

 スタイルは「いろはカルタ」のように先頭の文字と絵を記載するというシンプルなものです。本当のところ、文章を自分で考えてもらったり、フィリピンのことわざを盛り込んでもらったりとかもしたかったですが、あまりに時間が限られていますので、ひらがなすべてについて文章・単語をこちらであらかじめ用意しておき、それに沿って絵だけを描いてもらうようにしました。

 

 例としてサ行をお見せしますとこんな感じです。

さむらい

しゃしんをとりましょう。

スーパーでかいものをします。

せんせい、しつもんがあります。

ソフトドリンク

 描き方としましては、シチュエーションを完全に示してもよいし、そのなかの1アイテムだけでもよいこととしました。たとえば「あさごはんはパンです」ならば、ある人がパンを食べている絵でもよいし、ただパンの絵だけでもいいということです。プレイする時間を考えると絵を描く時間も十分に取れませんでしたので、できるだけシンプルに描くための配慮です。

 ただ性質上、似たような名詞がカブると札が分かりにくくなるので、そのあたりに気を付けながら例文を考えました*3。また、フィリピンで使われている言葉のカタカナ表記(「ツナサンド」「マクドナルド」)とか日本文化っぽいもの(「さむらい」「にんじゃ」)もできるだけ盛り込むよう努力しました。カタカナであっても札にはひらがなを書いていましたので、ちょっと紛らわしかったかもしれません。

 絵を描く楽しさもさることながら、よしんば下手でも「えー、これのどこが『にんじゃ』なの!」というような会話が生まれますので、にぎやかな雰囲気で作っていくことができたと思います。

 

 1グループは6人くらいで、「を」と「ん」を除く44枚の札を作り、グループで競ってもらいます。なんとなく人数にばらつきが生じましたが、あまり少ないとひとりあたりの配分が増えて全部の札に絵を描くのが大変になってしまいます。時間制約がきついのもそうですが、絵が得意な学生ほど力を入れすぎてなかなか進まない傾向がありました。絵を描く過程で、ひらがなを勘違いしてしまう学生もいました(「りゅうがくせい」の札なのに明らかに「猫」の絵を描いていたりとか)が、どうにか修正しつつやっていました。

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 で、急かして急かしてゲームを始めました。全員で同じ例文を共有していますので、読み上げはマイクで一遍に行うことができます。

 実は例文を自分たちで考えてもらわなかった理由はここにもあります。やっぱりカルタというのは、ホストが札を読み上げ、それを聞いてみんなが一斉に取りに行くという雰囲気が醍醐味でもありますから、それを崩してグループごとに遊ぶのは何か違うなと思ったのです。

 

 果たして思惑通り、みんなで同時に札を取りにいく高揚感は大変良かったと思います。読み上げた瞬間の、あのワーッという歓声は世界共通のようですね。中学高校での百人一首の難点は、盛り上がりのために、一度読んでから次の札にスムーズに移行できないという点が挙げられると思いますが、予想に反して円滑に運営できました。

 読む前には「つぎです」とか「聞いてください」という程度のキューを出し、集中を促しました。それから、ここまで書いていませんでしたが、今日はマニラ首都圏内のパートナーズ2名が手伝いに来てくれていまして、3人で交代しながら読み上げていきました。僕以外のネイティブの発音を聞くというのもよい経験となったかもしれません。

 

 札は全部は読み上げず、ほどほどのところで終わらせました。

 遊んでいる最中に気づいたのですが、カルタは時間調整が非常にやりやすいのですね。つまり、「そろそろ終わらせよう」という任意のタイミングで「あと5枚で終わります」と言えばうまくゲームを締められるのです。

 今回は学生たちの協力もあって、30分強で2ゲーム行うことができました。なお2ゲーム目はテーブルを移動して、他のメンバーが作った札(つまり目新しい札)で遊ばせます。うち1つのテーブルはチャンピオンシップとして、1ゲーム目のときに各テーブルで勝った学生を集めて王者決定戦を催しました。

 

 最後に記念撮影をして、ずいぶん盛り上がってくれたのはやっぱりうれしかったですが、例にもれず反省点は満載です。

 そもそも事前の準備があまりにも足りていませんでした。昨日の夕方の時点で札ができておらず、午前3時までかかって紙を切り続け、当日の授業開始時刻になっても全セットができていませんでした。友人の学生および先生にお手伝い頂いて、何とか間に合った次第です。またその突貫的な準備のために、複数のセットがごちゃごちゃになってしまい、2クラス目では札を配布するのに時間がかかってしまったのが非常に心苦しかったです。

 それからルールの説明が大変お粗末だったのも悔やまれます。初級クラスとあってほとんど英語で話しましたが、うまく言葉が出てこない自分が恨めしく思いました。しかしながら、今日になってようやく気付いたのは、英語の上達においては「言いたいことをどのように表現できるか」のストックが大事だということです。狭くとらえれば台本をきちんと書いておくということが必要ですし、広く言うと「こういう風にいいたいときはこの表現を使えばいいんだ」と頭に入れた表現を、いちど使ってしまえばそれは「自分の表現」になるわけで、それを増やすことがうまく英語を話すコツなのではないかと感じた次第です。当たり前なことなんですけどね。

 

 今回よくできたと思う点は、絵をかく前のプレゼンを絞った点です。今までにも書きましたが、僕はプレゼンをする時に「あれもこれも言いたい」と情報過多になる傾向があります。それはそれで面白いこともありましょうが、特に今日は発表に時間をさけませんでしたので、極めて簡潔に要点だけを話すよう努力しました。やりたいことが全部できるわけじゃないというのは、教育では意識しなくてはいけないことと思います。

 

 実践の模様につきましては、「日本語パートナーズ フィリピン3期」のFBページをご覧ください。

 

 終了後にちょっとしたアンケートを取りました。今日のワークショップの感想と次に何をやりたいかというお伺いですが、不満を書いた学生は見られませんでした。「札の配布をもっとスムーズにやるとよかった」とか「ルール説明はプレゼンのもっと始めに持ってきた方がいい」といった意見はみられつつも、みなさんゲームは楽しんでくれたようです。

 次回の要望として圧倒的に多かったのは「日本の食べもの」です。もちろん「寿司」とか「もちつき」なんてできそうにありませんが、なにかしら食べられるものを企画して、次回のテーマとしたいです。

*1:参照滞在50日目:花の都のまんなかで

*2:今年の春クールだかに1期の再放送がされていまして、それで初めてこのアニメを見ました。もっと早くに存在を知っていれば、僕もカルタを勉強し始めていたかもしれません。

*3:例えば「このじしょはだれのですか」と「ほんをよみます」だと、「じしょ」と「ほん」とで絵柄の区別がつけにくいので避けました。