日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

ある不吉な塊

 日本に帰ってきてから、僕は重い腰を上げて就職活動を開始しました。学生時代には大学院進学しか考えておらず、またそもそも教員志望で大学に入ったわけですから、エントリーシートを書いて数回にわたる面接を受けて……という類いの、「就活然とした就活」はどうにも厳しいと思っていました。

 でまあ、日本語パートナーの経験を活かせる進路が望ましいのは言うまでもないことですから、わかりやすく日本語学校をあたってみることにしました。折よく講師兼事務というまずまずなポストの募集が近郊の学校でかかっていましたので、さっそく応募して面接を受けることとなったのでした。

 

 先に言っておきますが、本記事はあくまで個人的な体験と感想に終始していまして、日本語教育業界その他の広域に批判を述べるものではございません。多少語気は強くなりますが、社会的不適合な若者の不満にすぎないとあらかじめご了承ください。また、特定を避けるために(されたって大きく困りゃしませんけどね)若干持って回った言い方とか、少しく事実と異なる記述とかを設けますが、内容自体は実際あったことに違いありません。この点もご理解いただけると幸いです。

 

 メールで履歴書を送信し、第一次面接となりました。学校自体は都内にあり、うちからのアクセスも良かったので大変好都合でした。ネットで情報を収集したところ、そこそこの規模(というか生徒数)の学校らしく、なんとなく安心感のようなものはありました。

 

 第一次面接は事務の方が担当で、まあ内容は「面接」と聞いて想像のつく範囲内のものでした。志望理由とか、日本語教師の仕事についてどういうイメージを持っているかとか、そういうところです。

 実のところ、僕は面接というものの訓練を行わずに生きてきました。パートナーズに応募したときも質問の答えは用意せずに赴きましたし、今回の件にしても同様です。個人的には、用意した回答を滔々と読み上げるように答えるのは面接の本分ではないと思っているところがあるわけですが、むろんこれは世間知らずな小僧の戯言に過ぎません*1。したがって今度の面接でも、パッと答えられず沈思黙考するようなところはありましたが、まあ自分に言える内容としてはこんなものかな、といったところです。

 ただ1点引っかかったのは、募集で「講師兼事務」となっていたところ、実際は事務がメインという話でした。別に僕としては、雇ってもらえれば(もっと俗にいうと金さえもらえれば)なんでもいいくらいのスタンスでしたから構わなかったのですが、「そうなると、ここまでにお答えいただいたキャリア(日本語教師を目標とした)から外れますが、それはどうですか」と聞かれたのにはちょっと戸惑いました。

 ともあれ、どうにか適当な答えを出していき、第一次面接が終わりますと、その日の夕方には二次面接の日程を決める旨のメールが入ってきました。

 

 

 二次面接はもちろん一次より偉い人と対面することになるわけですが、ここでは校長先生と採用担当の方との2名がいらっしゃいました。が、この第二次面接は僕にとって非常につらかったといいますか、はっきり言って憤りを覚える内容を含むものでした。

 質問はおおむね一次のときと同じような感じでしたが、例えば「本校を志望した理由」について「3つお答えください」と個数を指定されるのはちょっときつかったです。この数って何か必然性はあるのでしょうか。瞬時に思いついた理由が大きく2つしかなかったので、うち1つを無理やり割いて3つとして答えました。

 

 これはまだ答えられましたし、言ってみれば面接の雛形みたいなところがありますから全然よかったのですが、日本語教師を目指す理由、およびこの学校に応募した理由まで述べたあとで、以下のような質問をされました。

 

〇〇大学を卒業されたということですが、こんな良い学校を出てどうして一般企業に就職なさらなかったのですか。

 

 難関校とまで言うつもりはありませんが、確かに僕は全国的に名の通った大学を卒業しています。しかしそれを見て「なんで学歴のある人が日本語教師なんかするんですか」と聞こえる質問(こう理解するのが自然だと思います)をしてくるのには違和感を覚えずにはいられません。学歴の高低なんて気にしたことはありませんが、大卒を採用条件に挙げておいてそれはないでしょう。まして高い分には何ら問題はないと思いますが。

 さらに畳みかけるように次のような質問が飛んできます。

 

・教員免許をとられていますが、教師にはならないんですか。

・英語とか海外の人と関わる仕事では、いわゆる外資系企業もありますが、それは考えなかったんですか。

日本語教育ということでは、基金とかJICAみたいな公的機関もありますが、そちらには応募しないんですか。

日本語学校といってもいろいろありますが、どうして他へ行かずこの学校へ。

 

 重ねて言いますが、日本語教育をやりたいと思っている理由、およびこの学校に応募したPositiveな理由はすでに言ってあります。にもかかわらず、しつこく「他を選ばなかった理由」、つまりNegativeな聞き方をされるのに僕は嫌悪感を抱き、この時点でだいぶ嫌気がさしていました。

 先方はどんな答えを期待していたのでしょう。「それでも日本語教育がやりたい!」「どうしてもここがいい」なんていう一点張りを求めるはずもないでしょうし、「そういう仕事はやりたくなかった」とか「向いていないと思った」とかダウナー的な答え方、あるいは「あの業界(機関)はこういうところがよくない」という否定的な言説が正解だとでも言うのでしょうか。実際は適当にお茶を濁したような気がしますが、あまりに腹が立ったのでよく覚えていません。

 

 汗をかきながらそうした理不尽と戦って終盤に差し掛かったところで、こう聞かれました。

 

剣道をやっていらしたということですが、教室において体罰が厳禁であることはご理解くださっていますか。

 

 正直言って耳を疑いました。冗談でも笑えない言い草ですが、先方は極めてまじめな顔つきで、あまつさえ「本当に大丈夫ですか」と念押しまでしてきたのです。するわけないでしょ。

 確かに剣道などの武道の稽古場では、かなり壮絶な「教育」がされることもあります。が、たとえそうした経験をしていたとしても、このご時世、まして日本語教育の場でそれを応用しようとする人がいるとは考えにくいと思います*2

 もっと言うと、僕はけっして体育会系と言えるような外見でもありませんし、性格は快活でこそありませんが人当たりは悪くないと自負しています。面接はこの時点で1時間近くやっていたと思いますが、それだけの時間僕と話をして、「こいつは体罰をしかねない」と判断された(と質問からうかがえる)のは悲しくもありました。また、僕は教職課程をかなりまじめに受講してきたのです。いじめとか言葉狩りについては多少強い思想もありこそすれ、こんなところでそんな言い方をされるとは思ってもみませんでした。

 

 面接が終わり、帰りがけに校舎と教室とをご案内くださいましたが、もうそんなことはどうでもよくなっていました。早いところ帰りたくて仕方なかったのです。

  いちおう最終的な内定は出たようで「契約等の確認のため来校してほしい」という連絡が来ましたが、丁重にお断りしました。

 

 

 これが5月くらいの話で、そのあと今に至るまで日本語学校へは応募していませんし、今後も一切することはないと思います。こうした態度(というか面接の手順が決まっているのでしょうか)の学校がすべてというわけではもちろんないでしょうし、そうでないことを祈るばかりですが、これだけのことを言われて未だ日本語教師を志望できるほど、僕は強くできていません。

 めぐり合わせという意味では、己の運のなさを呪うばかりですが、なによりこれまで目指してきた仕事に裏切られたような形になったのは残念というほかありません。

 あるいは僕の質問のとらえ方が間違っているのかもしれません。先方には僕の与り知らぬところの意図があって、僕がそれを汲みきれずに勝手に腹を立てているだけということも当然考えられます。そうであるとするならば、なおのこと僕は就活に向いていないことになりますので、いずれにしても今後ともこの世界に入ることはないでしょう。

 

 重ねて申し上げますが、僕は日本語教育の世界全体がダメだと否定しているわけでは決してありません。たまたま僕がある学校の採用面接で嫌な思いをして、結果として日本語教師志望をやめるに至ったというだけの、まあ単なる恨み節です。誤解なさいませんよう。

 いつになくくだらない記事ですね。

*1:この辺は第二次選考:面接を読んでも察しが付くことと思います。そんなナメた態度で受かったのですから、僥倖というほかありません。

*2:ちなみに僕のいた道場ではかなり実力のある先生が教えてくださっていたためか、体罰的な厳しさは皆無でした。してみるに、手を挙げるのは教育する力のない教師がすることだ、という世間の言説は的を射ているのでしょう。