日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在205日目:参拝と新年の抱負

 新学期でクラスの編成は変わりましたが、驚くべきことに(あるいはさるべくして)先生ごとのクラスの雰囲気はみじんも変わっていないように見受けられます。盛り上げるのがうまい先生はどこでも健在ですし、大人しい感じの先生ならばどうあれ大人しいクラスになるようです。このあたり、いちおう教員免許を持っている身としては考えるところも色々ありますが、とかくいまはアシスタントに従事する毎日です。

 で、この日は先生の不在のため、あるクラスで文化紹介を頼まれました。テーマは、ちょっと遅めですがまあ1月ということで「初詣」についての話をすることに。

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 どのクラスでもそうなのですが、いきなり本題に入ろうとするとどうしても学生たちが固いままとなってしまいます。言葉の通じない外国人がヘタな英語で話しているのだから無理もないと思いますが、やはり授業を通じて良い反応を維持したいならば、一番初めに「アイスブレイク」を設置する必要があります。

 経験上、無難に効果的なのは声を出させることなのです*1が、今回はフィリピンの年始と日本の年始とを比べるところから始めてみました。

 そもそもこのクラスで前に立って話をするのは初めてだったので、自己紹介がてら初めてフィリピンの年明けを経験した話をし、そのあとに実際に僕が撮影した花火のビデオを見せました。これはいかにも「フィーバー」という感じの映像で、確認できるだけでも10カ所以上から花火が沸き上がるさまをとらえたものなのですが、街が煙に包まれゆく様相は、紛争でも起こっているのではないかと見紛うほどです。

 果たして学生たちの反応はまずまずでした。やっぱり花火を挙げる時に、人びとは興奮あるいは狂喜しているわけですから、それを見せたときのリアクションとしてもそこそこ盛り上がるのです。

 これとの対比として日本の除夜の鐘を見せたのですが、これはあまり面白くなかったので本当に一瞬示すにとどめました。ともあれ賑やかに年を越すフィリピンと、静かで厳かな日本との比較はうまくできたように思います。

 

 今回の尺は1時間でしたので語るべき内容も実はそんなに多くなくて、初詣は神社でもお寺でもよいということと、それから神社でのマナーと、それくらいのものでした。

 

 まず神社もお寺も可、というのは僕自身あまり考えてこなかったことでした。ようするに日本では明治まで神仏習合でしたので、仏教神道とは対立する宗教ではなかったわけです。

 ここでふと思い立ったので、神社とお寺の地図記号を白板に書いてみました。神社は分かりやすく鳥居の形ですが、寺の記号として「卍」を書いたときにはやはり学生たちからため息が漏れました。すかさず、「これは”アレ”とは違いますよ。”アレ”は反対向きですね」という説明をしておきましたが、やはり初見では勘違いされてしまうのだなあという気持ちでした*2

 

 次にマナーですが、これは僕もあまり明るくない上、すべて説明したのでは時間がかかりすぎると思ったので、よくまとまっている、記事冒頭の動画をそのまま使わせていただきました。

 特に象徴的な「2礼2拍1礼」とかは註をくわえつつ、みんなでその複雑さを確認できました。手水舎も同様に、ああいった細かい手順は場所によって微妙に異なるということですが、日本人ですらよくわかっていないところですよね。

 ビデオには鈴の描写がありませんでしたので、どんなものかは別に画像を用意して示しました。ここでトリビアとして紹介したのは、かのディズニー作品『ベイマックス』の顔が、神社(正確には花園神社)の鈴をヒントに設定されたということです。さすがにここには載せられませんが、言われてみればよく似ていますね。

 

 説明はこれくらいのものですが、もちろん「初詣とはなんぞや」という話をするだけでは面白くありません。クラスを活気づけ、楽しいものにするには、例によってなにかしらのアクティビティが必要なわけです。

 今回は、話の後で「絵馬」を作ってみることにしました。作るといっても木の札など準備できませんので、悩んだ末折り紙で再現することにします。折り方は以下の動画を参考にしました。

www.youtube.comすぐできる割に、けっこうちゃんと形になるのでよかったですね。説明もそんなに苦労しませんでした。

 折った後は文言を書きます。「学業成就」「家内安全」のような決まり文句をいくつか提示しておき、それ以外の場合は「絶対~する(Dictionary form)」というフレーズで書くように指示をしました。ネットの情報に過ぎませんが、絵馬は神に頼るというよりは自分の強い意志に力添えしてもらうという趣旨で書かれるらしいので、そういう調子で抱負を記してもらいます。「お金のことはどう書いたらいいですか」という質問もありましたが、直接的(俗っぽ)すぎるというのと、やはり自分の決意とは離れたところにある願いですから、あまりよい言葉が思いつきませんでした。

 ここで書く言葉を考えるのにどれだけ時間がかかるか、というのがこの実践における一番の不安要素だったのですが、このクラスはすでに3コース目ですのでそこそこ日本語を知っており、案外すんなりと終わらせられていました。

 

 今回よかったのは、「折り紙」という楽しめるアクティビティを自然に組み込めたこと、知的な喜びをもたらし得る雑学を盛り込めたことなどが挙げられます。ようするにプレゼンを作るのにも慣れてきていると言っていいかと思います。

 

 

デコレ concombre 絵馬ふせん 願いごとメモ

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田中ひろみの神社に行こう! ~イチからわかる参拝案内~

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絵馬 (ものと人間の文化史 12)

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*1:例えばこれまでやったところだと、黙々と取り組む「折り紙」の直前には色の名前を導入し、全員で発音させました。もっと前ですと、中学校での教育実習のときには、最初の授業でグループワークを使うとうまく緊張が解けると学びました。

*2:卍がナチの鍵十字を連想させるから地図記号を変えよう、という運動もあったように記憶しています(その後どうなったのかは知りません)が、実にくだらない議論だと思います。同じ記号を使っているのなら話は別ですけれども、別物なのだからどうして丁寧に由来を説明しようとしないのでしょうか。日本でよくみられるクレーム全般について言えますが、糾弾されるいわれのない事柄まで回避しようとして、どんどん自由が奪われていく風潮が大嫌いです。企業や学校、お寺や神社といった機関は、もう少し毅然とした態度をとらなければどんどん衰退していくと思います。