滞在173日目:My Joyful Christmas
クリスマスパーティを逃した僕は、ようよう体力も回復しつつありましたので、近くのモールにパンケーキでも食べに行くことにしました。これまでの短い人生を振り返っても、家族でというのを除いて賑やかなクリスマスを過ごしたことはありません*1から、そう意味での寂しさは全く感じていません。とはいえ、このフィリピンの地に来てまでして煤けたクリスマスを過ごすのは本意ではありませんから、ひとり勇ましく外出を決意した次第です。
パンケーキという選択は、ただ単に食べたかっただけの話です。
UPTCには、フィリピンおなじみPancake House*2もオープンしていましたが、開店したばかりで活気づいていて、又どちらかというと慎ましやかな店内面積に気後れして、いつものIHOPに入ることにしました。
日本からは10年以上前に撤退したIHOPは、こちらではまだ根強く残っていて、いわゆる「ファミレス」としての雰囲気は他に見られないような感じもします。ここは店内も広く、またそこまで混んでいたことがないので、ゆったりと時間を過ごすことができるので気に入っています。元が確かアメリカですから、料理なんかをとっても日本人には馴染み深いものがあります。
「いつもの」と書きましたが、実はそれほど通っているわけでもなくて、せいぜい月に1度くらいのものです。にもかかわらず、あるお兄さんが僕のことを覚えてくれていて、毎度毎度挨拶をしてくれるのでした。
今回もその例外ではなく、ソファ席に着いた僕のところまできて「Merry Christmas, sir」と笑顔を向けてくれました。たったこれだけ、挨拶ひとつだけなのに、「やっぱりここに来てよかった」と思う僕は、きっと疲れているのでしょう。でも現に、僕はとても嬉しかったのです。
注文は新商品だというパイナップルパンケーキといつものコーヒー。コーヒーはポットで出され、おかわりは自由です。
パイナップルを焼くってどうなのかしらと思ったら、案の定風味がかなり飛んでしまっていました。おそらくそんなに味の強い果物ではなかったためでしょうが、なんにしてもここはパンケーキ自体がおいしいのでよしとします。
食べ終わって、コーヒーを片手にスマホでpdfの論文など読んでいますと、隣の席(正確には僕から見て真後ろの席)に家族連れがやってきました。お父さんとお母さん、それからようやく歩けるようになったくらいの女の子です。
平生なら、別に誰がどのテーブルで食事をしようが全く気にしないわけですが、しばらくしますと僕の座っているソファの影から、その女の子が顔をのぞかせました。目がキョロッとして実に可愛らしい子です。その子は何が珍しいのか、僕の方をまっすぐに見つめていました。実のところ、僕は根っことしては子供が好きですので、こういうときには笑顔で手を振ってあげることにしています。そうすると女の子も、幼児特有の表情の固さこそあるものの、きちんと手を振り返してくれるのでした。幸いなことにご両親も比較的愛想の良い方で、お父さんは「おや、新しいお友達を見つけたのかい」と言い、お母さんの方も「ほらHelloは?」などと言っていました。僕がコーヒーを嗜んでいる間、女の子は出たり引っ込んだりを繰り返し、その度ごとに僕に手を振ってくるのでした。
帰り際、そのまま立ち去るのも惜しかったので、その家族にひと言だけ挨拶をしていくことにしました。ちょうど食事はまだ来ていないと見えましたので、女の子に「さよなら」と手を振ります。お父さんの膝に乗せられたその子は、お父さんの「お友達にバイバイは?」という声に促されてやはり手を振ってくれます。ついでとばかり、ご両親にも「Merry Christmas!」と笑顔を向けましたら、向こうも笑顔で「Merry Christmas」と返してくださいました。
初めから英語で話してきましたので、僕のことを少なくとも外国人だとは認識していらしたようですが、それでもあれだけにこやかに挨拶してくれたことが何よりうれしかったです。
店員と見ず知らずの家族と、たった4人と笑顔を交わしただけなのにすごく幸せな気分になった僕は、帰りがけにちょっと高級な来年のスケジュール帳を買いました。
来年はこれにたくさんいいことを書こう。と、柄にもなく感傷的になるほどいいクリスマスの日でした。