日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在57日目:とある水曜日の日常

 ここまでにお見せした記事を振り返ってみますと、どれも割合特別な行事ばかりでふだんの活動があまり見えてこないきらいがあります。授業でのアシスタントは毎日の生活に組み込まれていますので、改めて書き起こそうとするとなかなかむつかしいのです*1

 授業が始まって1ヶ月たち、8月も最後ですので、どうやら確定したらしい僕のスケジュールをご覧にいれようと思います。そのうえで、きょう一日の活動を語らせていただきます。

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 他のパートナーズの話、それからJFの方のお話を聞いていますと、僕の授業コマ数はだいぶ多いほうらしいです。月曜は授業がありませんし空きコマもままありますが、学生と話したりする時間だってもちろんそれなりに取りたいですし、けっこう忙しいというのが正直なところ。これだけ押し込んだのは、できるだけすべてのクラスに顔を出そうとしたためです。前にも申し上げましたが、僕はやることが逼迫していたほうが力の出せる人間ですので、これくらい詰め込んだ方が却ってよいと思います。

 強いて難点を挙げれば、いちばん早い7時からの授業が毎日入っている点でしょうか。しかし現に7時から授業をなさっている先生方がいらっしゃる以上、僕が悠々と10時にやってくるわけにはゆかないでしょう。6時に起きてギリギリという生活ですが、どうにか生きています。

 

 今日は水曜日で、割合クラスも少なく楽ちんな日を過ごすことができました。

 

 まず1限は漢字のクラス。このクラスは先生が病欠なさっているため、僕が代理としてクイズや期末プロジェクトの相談やらを受け持っています。クイズの範囲はいちおう今まで習った範囲なのですが、学生からするとけっこう難しいようですね。実に惜しい間違い*2もあったりして、応援してあげたくなります。

 クイズはたとえばこんな感じに作っています。

 

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 毎回決められた範囲がありますので、それの漢字をできるだけまんべんなく使い、且つなるべく文章として成立させるよう考えているつもりです。これをひとり15分ずつ順番におこない、余った時間が期末プロジェクト(好きな分野の漢字を調べてプレゼンする)のコンサルテーションとなっています。

 実はいま、UPには僕の後輩が3週間だけ勉強に来ていまして、その2人にこの作業を手伝ってもらっています。僕ひとりだとどうしても時間がかかりすぎるので、大助かりです。

 

 今日は授業後にこのクラスの学生何人かと朝ごはんを食べに行きました。近くの屋台でPancit(カラマンシ味)とTaho*3を食べました。朝からなかなかしっかりです。

 

 少し休み時間があって、別の初級のクラスへ。

 ようやく平仮名と片仮名を勉強したばかりで、それまでにバックグラウンドが一切なかった学生はまだ全部は書けない、というクラスです。今日の内容は格助詞の「の」。いろいろな意味がありますので、代表的な「わたしの専攻」「わたしのお父さんの仕事」といったところを勉強していました。

 よく文章の例示なんかでアシストをしますが、この日は学生が言いたいこと(専攻・仕事)を日本語でどう表現すればよいかを聞かれました。ただUPの専攻はあまりに豊富*4なので、「比較文学」「土木工学」「電気通信工学」あたりはまだ大丈夫なのですが、「Communication Research」とか「Broadcast Communication」「Speech Communication」あたりはカタカナで押し切ることしかできませんでした。ちょっと不覚です。

 

 また少し休みがあってから、もう少し上のレベルのクラスへ。これくらいのクラスですと、基本的な文型については既習なので学生ともかなり日本語でコミュニケーションがとれます。ところでこのクラスを含むいくつかのコマでは、1時間半を2コマぶっ通し(=3時間連続)という授業形態がとられています。よくそれだけ集中が持つなぁと感心しきりです。

 今日はここ何回かで習った文型の総ざらいという感じで、「あげる・もらう・くれる」「Bad Thing V てすみませんでした」「Vたとき、Vします」といった項目について練習をしていきました。いわゆる「やりもらい」については、動作主とか視点とかややこしい問題を孕んでいるのですが、すでに習ったもののどこに難しさがあるのかと言わんばかりに、易々とこなしてゆきました。

 続いて読解練習。日本語学習者向けの教材『レベル別日本語多読ライブラリー』から「いなかのネズミとまちのネズミ」を読んで、ペアで相談しながら英語に訳していくというタスクが与えられました。ペアごとに当てられて、1文ずつ答えていきますが、訳が嫌にあっさりしていたり*5逆に読むときの演技に力が入っていたりと、有り余る個性が噴出していました。ところでこの本、レベルが進むにつれて日本文学にも手を出すようになります。個人的には伊藤左千夫『野菊の墓』がおすすめで、もちろんある程度簡単にはリライトされていますが、雰囲気はちゃんと残っていますのでお勧めです。

朗読CD付 レベル別日本語多読ライブラリー レベル0 vol.1 (にほんごよむよむ文庫)

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 最後の2-30分で日本文化の紹介がなされました。お題は魚で、ドラえもんに出てくる「こいのぼり」とか、鵜飼の映像を見たりしました。鵜飼については中国でBCCが撮影した映像が流されましたが、あんなにえぐいものだとは知りませんでした。参考までにご紹介しておきます。

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 授業はここまで。この日は4時まででしたが、夜は初級クラスの学生がレストランへ連れて行ってくれました。さすがに会話のほとんどは英語ですが、2ヶ月もいますと自然彼らの既習範囲もぼんやりわかってきますので、できる範囲については日本語で話すよう心掛けています。

 

 以上のような日常を僕は過ごしているわけです。名前を覚えた学生も少しずつ増えてきて、それにつれて学生と外で会う機会も多くなりました。日本人が身近にいるということ自体、パートナーズの仕事の一部と考えています。

*1:というか僕の文章がだらだらと長いからいけないのです。文章を書くのは好きなのですが、これを生業に出来ないのは書きすぎるためでもあります。

*2:少し話はそれますが、殊第二言語習得においてはerrorとmistakeは別物です。前者はそもそも間違えて覚えているもので、後者は「わかってはいる」のにうっかり間違えてしまったものです。

*3:豆腐とタピオカに黒蜜をかけたようなお菓子です。小さいカップに入ったのが10ペソで、前回食べたときよりもおいしく感じました。味覚の変化でしょうか。

*4:一般的に、日本より海外の方が細分化されている感じはしますね。より高度なスペシャリストを養成しようとする意思がうかがえているように思います。

*5:部屋に招き入れる時に「どうぞ」といいますが、それを"please"と訳すのはかなり古臭いそうです。英語でも訳文らしい文体はあるのですね。