日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

研修5日目: 亦た楽しからずや

 心労とまでは言いませんが、さすがに5日目ともなると疲労がたまってきているようです。予習復習もしながら睡眠をとって、朝は元気よく語学の授業というのは、僕のようなnight owlにはかなり苛酷なものです。けれどもフィリピンは朝が早いものですし、この生活に身を置くのが一番勉強の時間をとれるということもわかっていますので、やはり何事も忍耐です。

 今日のメニューは、午前に語学のクラスと、午後にはフィリピン事情の解説、それから海外での危機管理についてのガイダンスといった感じでした。授業後には、ちょうど同センター内で研修を行っている、中央アジアからの留学生との交流会もあって、盛りだくさんの1日となりました。

 

 

①語学

 今日のテーマは買い物についてでした。"Shopping"と聞くとどうしても洋服を買うことを想定しがちで、それが英語でも同様なのかはわかりませんが、授業では服屋さんと食料品店とを場面として設け、会話の練習をしました。

 教科書には"May I try it on?"とか"I want to return a camera"とか、典型的な英会話表現が並んでいるのですが、「試着室があまりなかったりする」「返品はふつうは受けてくれない」みたいな、フィリピンの店ではどうかという事情も交えた授業なのが非常に楽しかったです。やはりこうした英会話の本で想定されているのはアメリカのようで、アメリカなら(訴訟大国なんていいますが)返品はけっこうよくあることとして受け入れてもらえるそうです。反面、フィリピンは店の規模にもよりけりですが、そういうサービスはあまり期待しないほうがよいみたいです。モールみたいに大きいところか小さい店か、によっても違うのでしょうが。

 僕が若干気になっていたのは、お金の受け渡しをする時のやりとりです。たとえば日本語だと、以下のようなやり取りが理想ではないかと思います。

店「お会計は750円です」

客「1000円でお願いします」

店「はい、1000円お預かりします」

 「250円のお返しです」

客「お世話様です」

店「ありがとうございました」

ここまで丁寧にやっている客はあまりないと思いますが、元コンビニ店員の感覚からすると、これくらいは言ってもいいんじゃないかなという気がします。自分が客の立場であるときは以上のようにふるまっているのですが、しかし英語ではどのように言えばよいのかというのがあまりつかめていませんでした。簡潔に言うと、お金を渡すときには特に何も言わなくてよいそうでした。店員は「お預かり」と「お返し」を言うことが多いですが、客は「ありがとう」だけ言えばいいらしいです。それもそれでちょっとそっけないように感じますが、確かに過度の丁寧さを見せつけても不審がられてしまいますね。

 最後にすこし、フィリピンの学校で実際に使う言い回しを練習しました。練習といっても、生徒にお知らせをする場合と、現地の学校のスタッフに要望や質問をする場合とを想定して、それぞれどういった事態がありうるかを考えるという話し合いでした。向こうでどういった活動が待ち受けているかはわかりませんが、たとえばプリンターがないとか*1、イベントの準備を手伝うとか、日本では考えられないほど切迫することが予想されました。実をいうと僕が派遣されるところは現地の先生の日本語レベルが非常に高いので、そういう意味では安心しています。

 

②フィリピン事情

 昨日に引き続いてフィリピンについての説明を頂きました。今日の中心となったのは、フィリピン人の性格や住宅事情など、暮らす上で気を付けておきたいことです。

 住居については、フィリピン派遣は恵まれているほうだそうでした。各校それぞれの方が泊まる場所を写真で拝見しましたけど、どこもかなり広くてきれいです。おまけに学校へのアクセスも簡便な場所が選ばれているとあって、現地での活動に集中することのできる環境だと感じました。とはいっても、ゴキブリなんかはわんさか出るでしょうけどね。

 すでに僕は身をもって存じていましたが、Facebook(FB)の重要性に関しても説明がありました。とかくフィリピン人は(僕の知る限りにおいては)やたらと写真を撮ります。FBで、僕のタイムラインはほぼフィリピン人による記事で埋め尽くされていて、毎食ごとにセルフィーの写真を上げているのではないかと思うほどなのです。逆に言うと、それをうまく利用することができれば、彼らとは実にたやすく距離を詰められるということにもなるでしょう。

 

③危機管理

 海外では、宗教の違いや価値観の違いなどから、渡航者が被害を被ることも少なくありません。それを未然に防ぐにはどんなことに気をつけたらいいか、という話を「海外邦人安全協会」というところからいらした方がお話しくださいました。

 いままでにも、留学をするたびに似たような話を聞かされましたから、どうせつまらない話なのだろうと思っていましたら、さにあらず。その方の豊富な経験を交えながら、すなわち極めて具体的な体験を例示しながら話が進んだので、一切の退屈をはさむ余地がないのです。ユーモアを交えながらではあるものの、服部剛丈くんの殺害事件、いわゆる「日本人留学生射殺事件」に端を発して、海外へ行く人が単に情報の足りなかったというだけで命を落とすことは避けなくてはならない、という痛切な願いが伝わる講義でした。

 覚えておかなくてはと思ったのは、銃やナイフを突きつけられてしまった場合、どのように命を守るかということ。まずは大人しく手を挙げたまま"Calm down"という言葉を発することが大事だそうです。つまり、自分が相手に対して敵意を持っていないと示すことが必要なのであって、仮に「まあまあ」なんて相手に歩み寄ろうものなら撃たれても刺されても文句は言えないのです。次いで、手を挙げた状態のまま「ここにお金が入ってるから」とポケットを示すこと。事前に10-20ドルくらいを用意しておいて、それを渡しさえすれば解放されるそうです。難しいのは、額が50ドルとか大金になると「こいつは俺を追いかけるんじゃないか」という考えの元、お金を奪った後に殺されるなんてこともあるらしいです。この場合は、靴底にでも帰りのバス代を潜ませておくことも必要となります。自分の身は自分で守るなんて簡単に言いますけど、その意識を常に持ち続けるというのは、案外簡単ではありません。

 

④交流会

 ここ関西国際センターは、日本語パートナーズだけではなく、海外からの留学生の研修なんかも行われています。現在は中央アジアからの留学生が滞在していまして、彼らとのささやかな交流会が開かれました。

 いかんせん日本人のほうが多いので、立ちっぱなしでとりとめのない話をしました。中央アジアというとあまりなじみがないわけで、そこから来た彼らのことにまず興味を惹かれましたし、学習者の日本語を観察する意味でも非常に有意義な会になったと思います。

 たまたま一緒に話をしたウズベク人の方とは、そのまま晩御飯も一緒に食べ、週末に近くの銭湯に行く約束まで取り付けてしまいました。大学でもけっこうやりましたが、留学生と関わるのは本当に楽しいです。

 

 昨日と一転して、活動の明るい1日でした。この調子があと3週間続けば、僕はどこででも働くことができる大人になれると思います。休日に何をするか、実はまだ予定が立っていないのですけどね。

 明日は語学のテスト。ミニテストとは聞いているけれども、不安なのでしっかり復習しておかなくては。

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*1:プリンターがない場合には、印刷屋さんを利用することになるそうです。1枚2ペソ(=5円)くらいで利用できるらしい。ふと思い出したのは、UPの学生ってお金がなくて国立を選んでいる面があるから、教科書を本として買う余裕がなく、学内のコピー屋さんに頼んで1冊まるごとコピーしたものを使っていたということです。著作権がどうのこうのは別にいいんですけど、コピー屋さんに行って「~の授業の教科書ください」とオーダーするのも不思議な光景です。