日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

てさぐりタガログ語の記憶

 外国語を習得する目的やモチベーションは人によってあり方がさまざまでしょう*1。仕事のためにイヤイヤ勉強する人もありましょうし、学習の過程そのものが楽しくて仕方ないという方は極めて幸せなことと思います。

 僕の場合は、もちろん海外に行きたいとか外国の人と関わりたいとかいうこともありますが、もっとミクロな視点でいうと「ジョークが理解できないのがイヤだから」というのがだいぶ大きいです。フィリピンで生活をし始めて、頭の1-2ヶ月が非常につらかったのは、タガログ語が分からないが故に、周りの人たちの笑っているポイントが共有できていなかったことにあると思います。

 

 個人的な学習の理由はさて措き、僕は言語を学習していくうえで、要素を多く含んだ例文を活用する方法が良いと思っています。単語だとか文型とか、学習において覚えることは多いですが、それらをそのまま丸ごと覚えられるほど僕の記憶容量は確かじゃありませんので、できるだけ「お得」な方法を好んでいるわけです。

 

 すごく単純化して言えば、ある1例文をしっかり理解する(必ずしも丸暗記する必要はありませんが)ことによって、重要な単語や応用の利く文型を頭に入れるというのが、少なくとも僕にとって勉強しやすいやり方でした。これと似たコンセプトは、以下のような教本にも採用されています。

DUO 3.0

DUO 3.0

 
ドラゴン・イングリッシュ基本英文100

ドラゴン・イングリッシュ基本英文100

 

 

 まあ、もうちょっと採用する例文が少なく、コンパクトに学習出来たらより気軽にできると思いますが、某有名な英単語帳のような、1語につき1例文というやり方よりよほどやりやすいです。

 

 ところで、タガログ語の理解を深める第一歩として僕にとって有用だったのは、以下の1文でした。

Maingay si A(職員の名前).

 これはフィリピンに着いて2週間くらい経ったころに、タガログ語の先生から教わったフレーズで、意味は「Aさんはうるさいです」といったところです。Aさんというのは言語学科で働いている職員の方で、明るくて大変頼りになる方ではあるのですが、あまりにも「にぎやか」なので先生方によく(冗談交じりに)注意されているのでした。

 ですから文意としてはあまり良いものではないながら、僕はタガログ語の多くの要素をこの文から学びとりました。初学者にはタガログ語文法のとっかかりとしてちょっとしたアドバイスになるかもしれませんので、以下にちょっと書き出してみます。

 

①語順

 有名な話ではありますが、タガログ語の語順はVSOです。すなわち「動詞+主語+目的語」となるわけで、英語しか勉強してきていない日本人にとってはあまり馴染みのない形でしょう。例えば”I EAT BREAD”をタガログ語の語順にそのまま置き換えるならば、”EAT I BREAD”となるわけです。

 形容詞述語文についても同様に順番がひっくり返り、形容詞が文頭にやってきます。例文でいうと”Maingay”が「うるさい(Noisy)」という形容詞にあたるわけです。

 ここで英語と違うのは、いわゆるBE動詞が絡んでこないという点です。”si”については後述しますが、ここでは名前の前に必ず付くマーカー(これが付くことによって、人の名前だと示せる)と思ってください。したがって、例文が持っている文の要素としては”[形容詞]+[人の名前]”だけということです。

 

 ②主格、目的格

 先ほど”si”について「名前の前に必ず付くマーカー」と書きましたが、これは名前が文の主格であるときの話に限られます。例文は英語でいうと”(Ms.)A is noisy.”ですので、いうまでもなく”A(さん)”は主格にあたりますね。

 ただ、これが名詞を修飾するときには別の形になります。英語の一人称では、主格が”I”で、名詞にかかるときは”My”というように形が変わりますが、それと同じようなものです。例えば、「Aさんの本」であれば”Libro(本)”という名詞を修飾して、”Libro ni A”と表されます。後ろから修飾する点も、英語とは違っていますね。なお、英語のMrやMsのように性別の区別はありません。

 このルールは、人名を表す”si-ni”の対立のみならず、一般名詞や代名詞についても同様に存在します。例えば、一般名詞”Estudyante(学生)”は、主格としては”Ang”を伴って”Maingay ang estudyante.(A student is noisy)”のような文となり、名詞修飾のときには”ng”を使って”Libro ng estudyante(Student’s book)”という形になります。

 話が複雑になるので代名詞(IとかYouとか)については省きますが、”si”や”Ang”がくっついた句を「Ang句」、”ni”や”ng”がくっついたのを「Ng句」と呼びます。

 

 

 ちょっと話が飛躍しているところもありますが、基本的には最初の例文”Maingay si A.”から導き出すことができたタガログ語の性質です。この文を利用して、ここまでに述べた性質(文型)を理解することができれば、次のような応用もできるわけです。

Mataba si B (Mr. B is fat).

Masarap ang saging (Banana is tasty).

Maganda ang buhok ng babae (The hair of a woman is beautiful).

 それぞれの単語の意味はあえて記入しませんでしたが、語順は明確ですので、英文訳と照らせばどの語がどの意味に対応しているかお分かりいただけるでしょう。

 

 偉そうなことを言ってますけど、僕だって多少かじった程度のタガログ語しか解しませんので、あまり深いこととか難しいことはわかりません。ただ殊初学者向けの手引きであれば、どうやったら理解しやすいかを考えながら学習してきたという意味において、少しく手助けできるところがあるのではないかと思います。

 なによりブログの記事としてまとめなおすことは自分の知識を再確認する助けになるわけですので、ちまちま書いていくかもしれません。

*1:モチベーションの上げ方ということでは、かつて千野栄一『外国語上達法』等、モチベーションを上げる読書でも言及しました。よければご参照ください。