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日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間派遣予定。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在234日目:中級の日本語

 文化紹介が終わって早々、授業の準備をしなくてはなりません。「なりません」なんていうとイヤイヤ仕事をしているようですが、さにあらず。2-3週間前に、中級クラスの先生に「授業をやってみない?」と打診され、これもよい経験と二つ返事で受け入れてしまったのです。前にも書いたかもしれませんが、こういう機会が来た場合、僕は基本的に即決で挑戦することにしています。多少健康とか時間に無理があっても*1、千載一遇のチャンスじゃありませんか。

 

 で、中級ということでテーマは結構難しく、今回扱うのは「しか~ない」「つまり」「~わけです」の3点。実質1時間くらいの授業ですのでまずまず時間はありますが、ということはみっちり練習を組み込んでいかなくてはなりません。

 

①しか~ない

 このテーマは、かつてロンドンで教育実習をしたときにクラスメイトがやっていたものです。そのときの僕の担当は「~だけ」という対照的なものでしたが、似たものを担当したからこそ「しか」の難しさを体感できたと思います。簡単に言えば、「だけ」は英語だと”Only”に言い換えられる一方で、「しか~ない」にあたる表現は思いつかないのです。

 例えば、「200円だけあります」と「200円しかありません」とを比べると、「財布に100円玉が2枚入っている」という状況としては全く同じということになります。異なるのは話者の気持ち(モダリティといってよいでしょうか)で、「だけ」はどちらかというとニュートラルな排他性に留まっていますが、「しか」は不足というネガティブな面が強調されているでしょう。より実際的に言えば、「200円しかない」は「もっとお金があれば~できるのに」という含みを伴っているということです。

 

 この項目自体は、恐らく知っている学生がほとんどだったと思います。けれども実際に使おうとしてみると「1時間しか勉強しました」のようなmistake*2が見られるので、否定形としか結びつかないという点を反復練習させました。

 それからもっとややこしいのは、他の助詞との兼ね合いです。

 

 (1)学校でだけ勉強します。

 (2)学校だけで勉強します。

 (3)学校でしか勉強しません。

 (4)*学校しかで勉強しません。

 

動作の発生場所を示す「で」を考えてみると、「だけ」については「でだけ」も「だけで」も可能です。一方、「しか」の場合は「でしか」のみ可能で「しかで」は非文となります。これは要するに「だけ」はそれだけで名詞節を作れる([学校だけ]←で)のに対し、「しか」はできない(*[学校しか]←で)ということなのだろうと思いますが、教え方としては「『しか』は助詞のあとにくる」という言い方でよさそうです。

 本当は助詞が省ける場合と必要な場合とも話したほうがよいのでしょうが、手ごたえとして大丈夫そうだったので多くは説明しませんでした。

 

 

②つまり

 言い換えとかまとめの文脈で用いられる接続詞ですね。活用するわけでもなく、前後の論理関係さえ合っていればいいので、これにはそこまで時間を割きませんでした。

 前後に来るのは名詞でも文でもいいことになっていまして、例えば以下のような感じになります。

 

 (5)私の母の兄、つまり伯父が結婚しました。

 (6)私の好きな食べものは、ケーキやアイスやドーナツです。

   つまり、私は甘党なんです。

 

英語で言うと”That is”とか”In other words”という感じですかね。

 

 

③わけです

 教科書通りの説明でいけば”Logical conclusion on the basis of what the person has heard or read”ということなのですが、用法は案外多岐にわたっています。

 

 (7)A:スミスさんは日本に十年も住んでいたんですよ。

  B:だから日本語がペラペラなわけですね。

 (8)A:このシチューは二時間かけて作りました。

  B:(どうりで)おいしいわけですね。

 (9)A:私の滞在は七月から九ヵ月間です。

  B:(つまり)三月までフィリピンにいるわけですね。

 

 (7)は”That’s why”という感じですかね。前の情報から順接的に導かれる結論を示しています。(8)は”No wonder”で詠嘆っぽい感じ、(9)は”So it means that”で「つまり」と似た言い換え(まとめ)の用法と言えましょう。

 たとえば(8)を見ますと、Bはすでにシチューを食べたあと(=味を知っている)わけですが、(9)の文脈で「おいしいわけですね」といえば、Aの説明を聞いてシチューがおいしいことを類推した文になります。このふたつ、僕の口だとアクセントが違いますが、あっているか自信は持てません。

 

 

 それぞれのセクションで練習を入れましたが、学生たちの力を信じて、自由度の高いものとしました。

 

 (10)山田さんは大学の先生だそうです。______わけですね。

 (11)フィリピンはいつも暑いです。だから_____わけです

 

(10)なら、「お金持ちなわけですね」「頭がいいわけですね」というような文が続き、(11)なら「みんな扇子を持っています」「休日はショッピングモールに行きます」という感じでしょうか。パターン練習にしてもいいのですが、このレベルなら学生でもちゃんと文をつくってくれますし、そちらのほうが盛り上がります。

 

 ちょうど1時間くらいの授業でしたが、できるだけ日本語で説明するように心がけました。留学を経験した学生も多かったので、知識としては既習のものが多かったかもしれませんが、少しでも刺激になっていたら幸いです。

 

 

AN INTEGRATED APPROACH TO INTERMEDIATE JAPANESE [Revised Edition] 中級の日本語 【改訂版】

AN INTEGRATED APPROACH TO INTERMEDIATE JAPANESE [Revised Edition] 中級の日本語 【改訂版】

 

*1:時間はともかくとして、健康面で無理を通せるのは若いうちだろうという自覚はあります。この「若い」という言い方が曲者で、今は未だ「若いわねぇ」と言っていただけることもありますが、せいぜいあと3-4年が華というところでしょう。時の流れとは残酷です。

*2:前にも書きましたが、SLA第二言語習得)の世界では、"mistake"と"error"とは区別されています。分かっている(つまりテストでは正解できる)のに口頭でうっかり間違えるのは前者で、そもそも間違って覚えているのがerrorというわけです。