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日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間派遣予定。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在225日目:日本語はやさしいですか?

IN THE PHILIPPINES 授業アシスタント ことばの話 教育の話

 さて、忙しい月末なわけですが、その分日々の充足も多く感じられますね。貯まった記事も細々と書きつないでいく所存です。

 この日はDemo Teaching、すなわち1つの授業を持たせていただけることになりました。もちろんそうそう頂ける機会でもありませんから、良い経験と自分なりに頑張ってみたいと望みました。

 テーマは『げんき』第5課、形容詞の導入です。

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 話題は逸れますが、3年前にUPで教育実習をしたときのテーマは「形容詞+する」でした。「髪を短くする」という人為的な変化を「髪が短くなる」という自然な変化と比較して授業を進めたものですが、かすかに記憶に残っていたその経験を活かす形で授業を構成しました。

 

 いちおう説明しておきますと、日本語の形容詞には大きく分けて2種類があります。「い形容詞」と「な形容詞」です。橋本進吉文法(いわゆる学校文法)のもとではそれぞれ「形容詞」「形容動詞」と言われているものですね。

 何がややこしいかというと、それぞれ活用が大きく違うということでしょうが、形容詞については動詞(うVerb、るVerb、Irregular)ほど見分けが難しくない*1ので、そこまでの苦労はありませんでした。

 

 活用によってつくられるのは、基本的に否定形、過去形、否定形過去の3つで、例えば「大きい」なら「大きくない」「大きかった」「大きくなかった」と形が変わります。

 この場合、否定にする時は「『い』を落として『くない』を足す」、過去にする時は「『い』を落として『かった』を足す」と説明します。また否定形過去については「大きくない」をまず作って、「ない」の語尾を い形容詞に見立てれば「『い』を落として『かった』を足す」という過去形を作るルールが適用できます。

 

 な形容詞は、活用の点では い形容詞よりわかりやすいと思います。「静かです」「静かじゃないです」「静かでした」「静かじゃなかったです」という組み合わせは、名詞述語文の場合*2と同様だからです。

 注意すべきは、い形容詞っぽく見える(語幹が「い」で終わる)な形容詞の存在でしょう。筆頭は「きれい(な)」で、これを い形容詞とみなすと「きれくない」「きれかった」と活用させてしまいますが、いちおう標準語では誤りということになっています*3

 もうひとつよくある議論は、な形容詞を示すときに「静か」と語幹だけを示すか「静かな」と「な」を付けた形で示すか、という点です。いうまでもなく、い形容詞の場合ですと名詞修飾用法でも叙述用法でも形は同じ「大きい」ですが、な形容詞の場合、前者は「静かな町」で、後者は「静かだ(です)」となります。教科書では「静か(な)」とされていますし、辞書を引くときには語幹部分だけを探さなくてはいけませんが、それが な形容詞であることを明示するとすれば「な」をつけておいた方がいいようにも思います。

 

 導入ですので変形のさせ方を徹底的に指導するわけですが、そういうときにはパワーポイントのアニメーションがすこぶる便利です。視覚的にわかりやすいですし、ちょっと工夫すればテキストを好きなように動かすことができ、黒板だけの場合よりもわかりやすく授業を行うことができるように思います*4

 

 まあ、初めて形容詞を扱う課ということでしたので、説明ののちはひたすらに変形練習を繰り返す形となりました。ただし飽きさせないように「日本語のクラスは楽しいですか」とか「chihariroさんはやさしいですか」といった質問をして、クラスの活気を保つよう努めました*5

 そんなに腕の良し悪しがでる単元とも言えないでしょうけど、ひとまずはうまくいったと思います。

 

 ところで、このデモティーチング後に、先生から簡単にバレンタインの説明がありました。

「Ano meron kahapon(昨日はなにがありましたか)?」

「Wala po(ありませんでした)」

 面白いやり取りです。

 

国語学概論

国語学概論

 

*1:基本的に、辞書形が「る」で終わるものは るVerbとみなしていいのですが、「帰る」のように例外もあります。また同じ音でも「帰る」「変える」ではタイプが異なりますから、結局はそれぞれの動詞について覚えるしかないということになってしまいます。

*2:「学生です」「学生じゃないです」「学生でした」「学生じゃなかったです」

*3:ところが、困ったことに大阪では割とふつうに「きれくない」という活用=「きれい」を い形容詞とする活用が使われています。黙っていればわかりゃしませんが、「ら抜き言葉」同様、「日本人が使っているのになぜ学習者は使ってはいけないのか」という根本的な問題が発生しえます。

*4:そういえば、大学で教職課程を履修しているときに「情報機器の操作」という必修科目がありました。最終課題は、パワーポイントで10分程度の授業を作るというもので、ようするに視覚的にわかりやすい教材の作り方を学ぶのが目的とされていました。単元はなんでもよいとのことでしたので、資料を多く提示する必要のある「短歌」を選び、斎藤茂吉の3首を扱う授業を構成しました。個人的にはかなり成功しましたが、他の科目、例えば英文法を選んだクラスメイトは苦戦を強いられていました。ところで、課題は楽しかったのですが、その先生は指導している割に情報機器をロクに使いこなせておらず、個人的には不満でした。

*5:なお、後者の質問に対して学生は「いいえ……」と言いかけていて、"Just be yourself"と促す形となりました。(どうやら「やさしくない」と言いたかったわけではなかったようですが)