日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在220日目:複雑な漢字の対策

 パートナーズとしての滞在も8ヶ月が経過しようとしていますが、現在に至るまで継続して日本語のクラスを履修している学生というのは案外少ないです。カリキュラム上、言語学専攻以外は上の方のレベルをとれないようでして、先学期まで仲良くしていた学生に会えなくなることに寂しさを感じたりもします。

 今日は、特に長く交流している学生の多いクラスで漢字のレポートがありまして、Supervisorとしてクラスに入ることになりました。

 

 ここでは毎週金曜日に、学生がその課の漢字を発表することになっているのですが、内容はけっこう多岐にわたっています。

 

 まずは書き順とその字を使った熟語とが紹介されます。まあこの点は小学校の漢字ドリルを思い起こしていただければ概ねその通りですね。

 書き順って、下手をすると日本人でもかなり適当に覚えているわけです*1けれど、教育の場でそれを言っては身も蓋もないので訂正はきっちりします。しかし、再三先生が指導しているにもかかわらず、横の直線を右から左へ流す学生がいるのは不思議でなりません。アルファベットだって文章は左→右ですから、さほど矛盾しないと思うのですが……。

 熟語の部分にしても、とくに読み仮名に間違いが多く見られます。よくあるのはいわゆる「特殊拍」のミスで、「っ」を落としたり「学校」を「がっこ」と綴ったりするようなものが頻発しています。今日のクラスでは「音読み」を「おにょみ」としていましたが、そのあたりまで細かく訂正していては日が暮れるのでそのままにしてしまいました。

 それから、Mnemonic(覚え方)も提示するのがルールになっているようでして、各班すべての漢字についてなにかしらのVisual Mnemonicを挙げています。僕が描くとなおさら伝わりにくくなるのでやめておきますが、「売」は2本足のテーブル越しにものを売る人、「買」は頭にカゴを載せている人をイメージとして重ねていました。こういうのがまとまった本として、僕は以下の書籍をよく参照します。

 

 ひらがなの場合もそうですが、文字を教える時には「どこに気を配るか」と同時に「どこは気を配らなくていいか」もわかっていなくてはいけないと思います。例えば「土」という漢字は絶対に下の横線を長く書かなくてはいけませんが、ひらがなの「き」の横棒はどちらが長いかと聞かれてもちょっと困ります。

 今日あった具体的な質問は「雪」という字についてのもので、雨かんむりの点のうち、下側の2つは囲いの外にでるべきなのか、と聞かれました。

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確かに上の教科書体のフォントを見れば、2-3画目で書く屋根の中に入っているのは上の点々だけのようですが、どうなんでしょう。それよりも他に気にすべきところがあるように思います。部首としての「雨」は単体の「雨」とは微妙に形が違う話はしておきました。

 その他「柔道」という漢字の意味についての質問はありましたが、それはそれとしまして、発表の最後には復習がてらゲームが催されました。毎回の決まり事として、発表グループが簡単なゲームを企画して、それを通して漢字の練習をしようというのです。今回のルールはシンプルで、グループ(毎回同じ)の1人を解答者と設定し、残りがジェスチュアで熟語を当てさせるというものでした。「気持ち」「朝食」はまだどうにかわかりましたが、「社長」はちょっと厳しかったようですね。

 

 で、その後には発表グループによる小テストがあったのですが、その前にちょっと補足として「正」について蘊蓄を垂れておきました。ことさらいうまでもありませんが、日本人は例えば何かのスコアをカウントしていくときにこの字を書きますね。フィリピンではアメリカ同様に縦の線を4本書き、5本目はそれらを横切る斜めの線を書くわけですが、よく考えたら漢字をあてはめるのってすごいようにも思います。5本の直線で構成されて、整った形、一見して見やすい漢字となると「正」くらいしか適当なのがないのではないでしょうか。

 学生が使うかどうかはともかくとして、そういう教科書に載っていない話をできただけで、ひとまず今日は仕事をしたかなという感じがしています。

*1:下手をするとひらがなにも間違いは頻出します。「も」は縦画から書きますが、この事実はかつてひらがな知育玩具のCMで一瞬有名になった記憶があります。「や」も曲線→点→直線の順を守っていないケースがよく見られます。