日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在210日目:挑戦的新学期①「ひらがなを教える」

 喜ばしいことに、新学期早々に先生方からご依頼を立て続けに頂きました。再三書いています通り、パートナーズの使命として一番大きいものは、学生たちにとって身近な日本人として生活して、彼らと友達になることだろうと思っているのですが、それにしても何も発表の類がなければ退屈すぎます。もっといいますと、発表というか学生たちの前に立つことで距離を詰められる一面もあるわけですので、もっともっと経験を積んでいきたいです。

 この日は3本だてで、初めに初級クラスでひらがなの練習、次に中上級クラスでテストの監督、最後に別の中上級クラスで日本事情の発表がありました。

 

 ひらがなのクラスで面倒を見ることになったのは初めてだったのですが、正直かなり難しいです。先生から「こういうことをやって」ということでスライドは頂いていましたけれど、当然日本語など通じるわけもなく、かなり緊張していました。またこのクラスでの自己紹介はまだ十分にしていませんでしたので、緊張ということでいえばお互い様だったのでしょう。

 

 日本語学習ということを話題にする時、「世界的にみても難しい言語だ」という言説がしばし見受けられますが、半分は誤りで半分は正解でしょう。というのも、言語の結構たる文法の難しさでいうと、さして際立っていないだろうと思うのです。もちろん語族が同じ言語間での学習(フランス語話者のドイツ語学習など)では習得も比較的容易になるかもしれませんが、そうでないとすれば言語を学ぶときの困難は誰しもくぐり抜けなくてはならないわけで、そこに程度がどうとかいう議論をはさむ余地は一般的に言って無意味ではないでしょうか。

 ただし筆記となれば話は別です。ただでさえ表音文字がひらがな46字+カタカナ46字と多いのに加え、不自由ない生活をするには約2000字の漢字を習得しなければなりません。その意味では中国語も同様です*1が、単純に覚える字が多いというのは苦しいものです。

 

 で、授業についてですが、彼らがすでに習っているのはタ行まででした。ですので、その範囲の読み方、及び書き方を練習させてほしいというのが先生の要望でした。ここでひらがなを導入する必要はなかったというのが、僕にとっては非常に幸いでした。どうあれ単純に覚えるしかないことがらを指導するのは、退屈で難しいものです。

 内容としては実に単純で、一文字ずつスライドに表示しては学生たちに読ませるというものです。それを徐々に長い単語にして、速く読めるような訓練となればという思いです。やっていくなかで、やはりちゃんと覚えていない学生は読むのに時間がかかり、時としてリストと見比べてようやく読めるようになったりしていましたが、これについては「覚えておいてね」としか言いようがありませんね。

 

 ひらがなを覚えさせる時には、定石としてHiragana in 48 minutesというものを使う先生が多いです。簡単に言うとひらがなの形を語呂合わせ(?)で覚えていくという教材なのですが、あいにく僕は持っていませんのでこちらを代用としました。

Hiragana Memory Hint 英語版

Hiragana Memory Hint 英語版

  • The Japan Foundation Japanese-Language Institute, Kansai
  • 教育
  • 無料

play.google.com国際交流基金の作った”Hiragana Memory Hints”というアプリケーションで、こちらはスマホで誰でも使うことができるので便利です。

 残念なことに、プロジェクターと繋げなかったため、今回の授業ではみんなに見せることはできませんでしたけど、紹介はしたので有効に使ってもらえたらと思っています。

 

 一通り読む練習をした後で、時間の余りが見えましたので、急遽ディクテーションをやってみることにしました。すでに示した単語の中から15を選び、それを僕が音読するのでひらがなで書いてもらおうというものです。本当なら、答え合わせでひとりずつ前に書いてもらいたいところでしたが、音読に思いのほか時間を使ってしまった(なかなか聞き取れない様子だった)ため、僕が自分で答えを書くことになってしまいました。これは完全に失敗です。

 さらに、あとから「しまった」と思ったのは、このあとに控えているのが「とめ・はね・はらい」の導入だったということです。どうせ書き取り練習をするのであれば、書き方のルールを指導してからやるべきでした。事前に授業の見取図をきちんと確認しておかなかったために起こったミスです。

 後出しのようになってしまいましたが、仕方なく書き取り練習の後で「とめ・はね・はらい」について話をします。いちおう表示するフォントは「教科書体*2」をつかっていますのでなんとなくは分かるでしょうが、基本的に筆の名残だというところをわかってほしかったので、水習字を使いながらの説明となりました。

呉竹 半紙 水書き 水でお習字 半紙 KN37-10

呉竹 半紙 水書き 水でお習字 半紙 KN37-10

 

「もし機会があったら書道の体験もしてみましょうね」と口走ってしまったものの、そんな時間があるかどうか疑問ですし、まして興味を持ってもらえているかどうかとなると尚自信がありません。

 

 最後の最後に2-3分空きができたので、ここまで習ったひらがなの元となった漢字を書き出してみました。なんでそうなるのかは掴みにくかったようですが、雑学的な話として提示した次第です。

 

 1点だけ質問があって、「じ」と「ぢ」の使い分けはどうしているのかと聞かれました。「ず」と「づ」もそうですが、確か歴史的に言えば、元々「ぢ」は/di/、「づ」は/du/で発音が違ったわけですが、今となってはダ行の2つを表記する場面はあまりありません。ですので「例外はあるが、基本的にザ行の方を使う」という程度の回答に留めました。

 

 いや当たり前なんですが、授業をやるときにはちゃんとイチからジュウまで準備しておかなくては駄目ですね。ほころびが生じてワタワタすると、学生まで不安になってしまいますから。

 

*1:中国語を勉強していたときに「なんて覚えることが多いんだ」と嘆いたことがあります。まず第一に漢字(日本のとは違う)があり、その意味、さらには発音(4声含む)までセットになってようやく1単語となるわけです。確かに英語はスペルの問題があるわけですが、ほとんど発音の通りに記述できますので、そういう意味では英語の方が簡単かもしれません。

*2:ふだんよく使われる明朝体やゴシック体ですと、「き」「さ」がくっつくかどうかを初めとする面倒な勘違いが起きやすいので、僕は基本的に教科書体(国語の教科書と同じフォント)を用いるようにしています。