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日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間派遣予定。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在196日目:学期と新生活の開幕

 ようやっと新学期が始まりました。

 改めて考えてみますと、ここに派遣されて最初の1ヶ月は休み期間でしたし、この冬休みについても1ヶ月強何もしていません。厳密には学会に参加したりとか他の学校に行ったりとかしましたが、本務校での活動がないというのもなぁと複雑な思いです。このあたり、次回4期の派遣では改善したほうがいいかもしれないという意味で、JFMにかけあってみるつもりです。

 

 で、授業初日ですが、学校がないのに安んじて怠惰な生活を送っていた僕にとって、いきなり朝7時からの授業があるのには緊張しました。学生時代でもここまで人間らしい生活を送ってきませんでしたから、社会人になっていくうえで「早起き」が一番の課題というわけです。

 前日の対策として、風呂食事といった雑務をとっとと終わらせてしまい、なんと9時に寝付くことに成功しました。6時に起きられれば7時には間に合いますので、どんなに長い睡眠をとっても起きられるだろうという算段です*1

 ところが、やはり体は慣れていないと見えて、3時に目が覚めてしまいました。二度寝を決め込むには実に中途半端な時刻です。でもまあ6時間寝ているから十分だろうと思い切って起き上がり、普段なら夜している「ダラダラした時間」を過ごすことにしました。

 

 そうこうして7時からの授業へ。今日は3クラスがありましたが、レベルは大きくバラバラでした。

 

 ところで、UPにおける授業は「科目名+レベル」で呼ばれます。というのも特に語学についてはレベルも細かく分かれていますし、同じ言語であっても内容が大きく異なるクラスがたくさんあるのです*2

 たとえば日本語ならば、科目名は「Hapon(ハポン=日本語の意)」で、これまでに確認したレベルは下から10, 11, 12, 13, 20, 100, 101, 110, 111, 112, 120, 122, 123がありました。このうち10から101まで(20は例外)が教科書『げんき』をもとに文法を学ぶクラスで、それ以外は作文のクラスとか漢字のクラスとか、より学習レベルを押し上げるものとして開講されています。

 基本的に4ヶ月くらいの学期で1時間半のコマを週に2回受け、晴れてひとつのクラスが修了となります。ただし、1学期間にまとめて連続する2つの授業を終えてしまう枠もあり、この場合は「Hapon10-11」のように呼ばれますが、コマ数が週4になるものと1回あたりの授業時間が3時間になるものとがあります(いずれにしてもかなりの根気と集中力が必要とはなります)。

 

 今日見た最初の授業はHapon12-13、つまり7時から10時まで3時間連続したコマでした。もちろん学生たちはすでにHapon10, 11を履修済みですので、それなりの知識は備わっています。

 ここで興味深かった実践は、新しい語彙をやや力ずくで覚えさせ、それで文章を組み立てさせるというものでした。学生たちはまだ教科書をもっていませんので、リスニングCDを流し、聞き終わったあとで何を覚えられたか聞いていきます。とりあえず1人につき2つずつ答えればよいものとして、言わせた後で「じゃあそれを使って文章つくってみて」と指示を出していました。

 そもそもCDの音源は「日本語→英語」という風に流れますが、2-3回聞いたくらいでそう簡単に覚えられるものではないと思います。ここで学生たちが答えられたのは、これまでにどこかで聞いたことのある言葉だったのかもしれませんが、それでも新出語彙で文をつくるというのはかなり緊張するでしょう。既習語彙であれば、少なくとも1度は文の中での使われ方を聞いていますから、うまく置き換えて作ることもできるでしょう*3が、英語の意味を聞いただけではパッと日本語に変換することは困難です。

 生成される文にも問題はあって、例えば「持っていく」という動詞(というかフレーズ)がありました。英語ではTo Takeと説明されていましたが、それを覚えたひとりの学生は次のような文をつくりました。

 

  *わたしはHapon12-13を持っていきます。

 

これは"I’m taking Hapon12-13."の訳文だったわけですが、言うまでもなく非文です。そも'Take'自体かなり多くの意味がありますから、単純に語を対応させるのも難しいですね。

 問題も起こり得る実践ではありますが、とはいえこうした挑戦を強いることもある意味では必要だと思います。何を学ぶにおいても、分かることだけやっていては上達が望めないからです。Krashenのインプット仮説*4でいうところの”i+1”に近いものがありますでしょうか。

 

 

 次のクラスは中上級、コース名で言うとHapon122です。すでに『げんき』は終わっていますし、多くの学生が留学経験を持っていますので、内容も「日本事情」とちょっぴりハードなものとなっています。今月やる内容は、昨年の「ユーキャン新語・流行語大賞」です。確かに、現代日本の話題や問題をつかむ上では格好の素材かもしれません。

 先生からざっと説明がなされた後で、30の候補語が学生1人につき2つ割り振られました。次の授業から、学生それぞれに発表をさせ、それを通して勉強していくという形態です。前にも書いたと思いますが、UPの授業は総じてプレゼンが多いです。多少負担は大きいながら、やはり自分で調べて何かさせたほうが学びとしては有効でしょう*5

 ちなみに、僕にも2語が割り振られました。僕は割合簡単なものを引き当てましたが、他の学生が当たった「センテンススプリング」とかは説明が難しいですね。事情が分かっているからこそ面白いわけですけれど、その「事情」をわかるようにイチから説明するとなると骨が折れそうです。「都民ファースト」「新しい決断」なんて、本当に話題になったのでしょうか。このあたりは日本にいなかったのでよくわかりません。

 

 その後にはスピーキングのクラスがありました。これも、『げんき』修了者向けの授業で、スピーチや普段の会話など、口頭での日本語スキルを強化しようという目的があります。

 初日はウォームアップにとどまりましたが、学生ひとりひとりの目標を聞いてみますと、単純に「日本語がうまくなりたい」という声もあれば、「ふだんは友達としか話さず、従ってカジュアルな話し方が身についてしまっているから、もっと公向けの話し方を学びたい」という明確な問題意識をもっている学生もありました。

 

 今日見た中には、前のセメスターから継続して日本語を学ぶ学生もいましたし、初めてみる学生ももちろんいました。そうしたリストラクションの中で、どういう風な活動ができるか楽しみです。

 まあ、なんだかんだ言いながらも一日中眠くて仕方なかったので、とかく生活リズムの構築が最重要案件なわけですが。

*1:天才柳沢教授の生活』の柳沢教授は、夜9時に寝て朝5時半に起きるという生活を継続しています。「そんなん真似できるかい!」と思っていましたが、よく考えたら見たいテレビがあるわけでもないのでやろうと思えば全然可能なのでした。

*2:日本の大学でどうかと考えたときに、僕の場合は「英語表現」「英語読解」「Oral Communication」「中国語(初級)」「中国語コミュニケーション」を必修として履修しましたが、下手に必修になっているものだから学生の士気は非常に低く、従って先生も本腰を入れていない(入れられない)のがミエミエで嫌でした。たとい自分でとりたくてとった授業でなくとも、やるからにはそれなりに習得したいと思い、当時は真剣に勉強したものです。その甲斐あって中国語はそれなりに覚えていますし、「英語読解」では英文を文学的なアプローチで読む方法を学ぶことができました。

*3:どの言語でもそうですが、基本となる文型をいくつか利用し、置き換えることを通して語彙と表現を増やしていくのは大切なことだと思います。日本語だと「XはYです」さえあれば大抵のことは言えてしまいますね(「私は学生です」「ここは大学です」「あの人は山田先生です」「メアリーさんはやさしいです」の如く)。僕がタガログ語を覚えたのも同様の手続きに依っていて、初めて覚えた"Maingay si (友人の名前)."という文を改変していくつかの表現を習得しました。

*4:第二言語習得においては最も基本的な理論だと思います。40年くらい前の理論ですが、普遍性があるので覚えておいて損はないです。

*5:と思いましたが、僕が大学で受けていた演習系の授業で、特に1年目の必修のものはどうしようもない発表も多かったです。といいうのも、参考書籍を寄せ集めただけで生産性のないレポートがよく見られたのです。まあ、それで成立する課題設定にも非はあるのかもしれませんが、振り返ると「大学生」に失望したのは、あの1年目の授業だったのかもしれません。