日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在185日目:福笑いに年賀状に

 年も明けまして、ようよう学校も始まりだしています。ベトナムなど旧正月を採用している国では「年明け」はさして大きなイベントではないそうですし、フィリピンにおきましてもクリスマスほど騒ぎになっているわけでもありません。日本人として驚くべきことに、高校によっては3日からもう授業の始まるところがあるということでした。

 しかしながら、UPの授業は16日の週からということで、僕の冬(?)休みはもう少し続きます。いい加減何か仕事をしないとボケそうだと思っているところ*1に、今日は「おしゃべりサロン」が実施されました。

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 前にも少し書きましたが、おしゃべりサロンというのはJFM主催のイベントで、日本語や日本文化を紹介するという、open to the publicな催しです。隔月で開催なので、僕らの滞在期間には都合5回開催され、これが4度目の回でした。

 今回のテーマは、言うまでもなく「お正月」。本来なら正月遊びとかいろいろ提示して楽しみたいところですが、なにしろ尺の制限がなかなか厳しいので、今回は「福笑い」と「年賀状」にフォーカスすることになりました。

 なお、僕はまたしても担当ではないので、サポートに徹します。

 

 まずは正月の挨拶として「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」を練習しました。提示のときにはサンプルとして、僕ともう1名のパートナーが実際の場面を演じてみたのですが、できるだけ忠実にやろうということで、部下役の僕がやたらペコペコしていたのは成功だったかなと思います。しきりにお辞儀をするのは日本人のステレオタイプでもありましょうが、殊正月なんかではその光景が現実として繰り広げられがちな印象もありますね。

 で、見せたあとは前に座っていた方を指名して、僕らと同じことをやってもらいます。ちょうどそれなりに日本語のお出来になる方でしたので、ペコペコ具合もうまく再現できていました。

 

 そのあとはいくつかクイズを出します。

 年末年始の架空の予定表に沿ってその様子を伝えながら進行しまして、「年越しで食べるものは?(蕎麦)」「年末に家ですることは?(掃除)」など、選択肢を用意しながらもなかなか細かい問題を設えていました。

 途中、初夢のクイズもあったのですが、富士と鷹はともかくとして、茄子が3番目に来るのはさすがに腑に落ちなかったことでしょう。これについては諸説あるようで、「成す」との掛詞とかいう話もそれっぽいですが、個人的には「初物の茄子が高い」という解釈だと、富士と鷹も「高い」に関連していますから統一がとれてよいと思っています。ちなみに続きとしては「四扇、五煙草、六座頭」というのも有名ですが、ちょっと蛇足感があるので僕は好きじゃありません。

 

 で、福笑いの実践です。

 まずはやはりデモということで、僕が目隠しをしてホワイトボードの顔枠にパーツを貼ってゆきます。あまり長引かせてもなぁというのと、あまり完全な顔にしても面白くないという発想から、「上!」「右!」という来場者の手伝いをほどほどのところで切り上げ、やや適当気味に作成しました。果たしてそれなりの顔ではありながら、若干顔が崩れるという妙を表現できたのでよかったかなと思っています。

 そのあとはグループごとに遊んでもらいます。時間の関係から1人しか遊べませんでしたが、同じことを2度やっても明らかに冗長ですのでこれは好かったと思います。ところで、この日の来場者は総じて日本語レベルが高めな印象で、目隠しをした人への指示も、それぞれきちんと日本語でできていました。結果、ほとんどのグループがまずまずの顔を作り、1グループは若者風に言うと「ネタに走り」、『不安の種*2』の「オチョナンさん」のようなおかめを作っていました。これも盛り上がってよかったです。

 

 最後に年賀状を作ります。

 もちろん葉書などという規格はフィリピンに存在していませんが、4×6インチのインデックスカードがほぼ同じ大きさなのでこれを代用としました。材料として色紙と筆ペンを用意し、鳥や富士山を描いた例をお手本にして、自由に作成してもらいます。

 僕など美術が大の苦手で、何が苦手かといいますと、こういう自由な発想を活かせる場面において、アイディアが一切浮かばないのです。絵が描けないという根本的な問題もありますが、この障壁によって幾度となく苦汁をなめてきました。今さらどうにかなるものでもないかもしれませんが、パートナーズ活動でも発想の貧困には悩まされ続けています。

 その点フィリピンの方は、下手であっても下手なりにトライしてみる傾向が強いように思います。もっと言うと、ある種若干「無謀な」挑戦を推し進めた結果として、存外良いものが出来上がった、というさまもこれまでに何度か目にしてきました。今度の場合もやはりそうで、とりあえず色々描いてみる中でオリジナリティが発揮され、限られたマテリアルの中で三者三様ともいうべき年賀状群ができあがりました。既定で写真を載せられないのが残念でなりませんが、近いうちJFMの公式FBに写真が挙がるはずなので、よければご高覧ください。

 

 そういうわけで、今回も好評のうちに会は幕を閉じました。特に年始だからか参加人数も少なく、小ぢんまりと楽しい会ができたように感じています。

 ここで憂鬱なのは、次回の3月はパートナーズ3期として最後の運営でありながら、他ならぬ僕が中心となって会を引っ張らなければならないということです。ネタのあたりはつけつつありますが、なんとかして楽しめるものを画策したいところですが、肝心の僕が楽しい人物でないというのは、やはり最大の問題点と言わざるを得ません。

*1:同じようなことを大学4年時にも体感しました。とれるだけ授業を取り、好奇心のまま大学生活を送り続けてきた僕にとって、履修すべき講義のない4年目は溶けるほどに退屈な日々でした。教養というものを「自分一人で時間を潰す能力」と言ったのは中島らもだそうですが、その点で僕は教養人になりきれていないわけです。

*2:僕は基本的にホラーが嫌いなのですが、怖いもの見たさからうっかり本作を読んだところ、数日間恐怖で眠れない夜を過ごしました。ただ幽霊が怖いとか大きな驚きがあるわけではなく、日常に「潜んでいそうな」恐怖を盛り立てた作風はすごいと思います。短編で手軽に読めてしまうというのが更に怖いところ。