日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在154日目:口頭試験について

 もういい加減ほとんどのクラスがテスト期間に突入しまして、そうなると僕の出番は格段に少なくなるのが必然であります。中間試験のときには、先生の不在などによって試験監督を任されたりもしましたが、今回はそんなこともなく、殊筆記試験においては全くのノータッチという形になりました。

 少し前には、あるクラスの口頭試験を日本人留学生たちと一緒に手伝いましたが、今日は別のクラスでも(今度は僕ひとりですが)試験を担当しました。

 

 一遍に、それも僕ひとりでクラスの全員をやるのには無理がありますので、先週と今週とで分割して行いました。クラスは最初級とそのもうひとつ上のクラスとの2つです。

 まず最初級のクラスですが、これはそんなに難しい文法もありません*1ので、語彙を覚えているかどうかがかなり決め手となりました。

 例えば、比較的難しい質問のひとつに「よく日本料理*2を食べますか」というものがありましたが、これに「Chickenを食べます」と答える学生は、何を問われているか、及び「日本料理」が何かが分かっていないことになります。その後の段階で「何を食べますか」とか「どこで食べますか」とかも聞くわけですが、この段階ではまだ「はい、よく日本料理を食べます」と答えるだけでよいのです。「はい、食べます」だけでももちろん正解ですが、次に「何をよく食べますか」と聞いたときに「Chickenです」なんて答えようものなら、「日本料理」が理解できていないのだとわかるわけです。このあたりはけっこう答えにくかったようですね。

 また相当数いたのは、なんでも「~です」で答える学生です。例えば以下のような感じ。

(1)明日どこに行きますか

 ――大学です。

(2)そこで何をしますか。

 ――勉強です。

(3)誰と行きますか。

 ――友達です。

 確かに質問を理解したうえで適当な内容を導いてはいますが、初級のうちからこのようなクセがついてしまうのはよくないでしょう。もっといいますと、(3)の答えは「友達です」より「友達とです」の方がふさわしいですし、どの場合が例外となるかを説明する(覚える)くらいなら、いわゆる「コピー・アンド・ペースト」式に「友達と行きます」と言ったほうが楽なはずです。

 授業としては一番基本のクラスでも、すでにそこそこ日本語を知っている、あるいは外で自主的に勉強している人もいて、当然そうした学生たちは言葉をよく知っているし、会話も通じやすいです。けれども、自分で勉強するあまりクラスでの学習内容が単純でつまらないものに見えてしまい「これで通じるからいいじゃん」とばかりに真剣さを失っている学生もいまして、これはかなり危険な状況だと思います。中上級に進めばそれでいいかもしれませんが、少なくとも基本を学ぶうちは愚直なほどクラスの勉強に集中すべきだと僕は考えています。もっと厳しい言い方をすれば、如何にコミュニケーションが取れているようでも、この程度のレベルのテストで点数をとれない(文法的、教科書的に正しい言い方ができない)ならば、それはきちんと日本語が分かっていないということですし、そうした学習者には高い水準の成果(習得)は期待できないでしょう。

 と、いうようなことを、口頭試験をしながら考えていました。

 

 もうひとつ上のクラスでもだいたい同じような感じでした。

 「日本語はどうですか」という質問は「楽しいです」とか「難しいです」といった答えを期待したものですが、ある学生はどうにも飲みこめなかったような表情だったので何が分からないか聞いてみますと「それは『What is Japanese?』と聞いているのですか」と言われてしまいました。更にわからない学生は「フィリピンの上です」と答えたりしていて、他人事ではありながら非常に興味深かったです。

 このクラス、帳簿の上でのレベルは2段階目なのですが、学生がそれだけできているかというとそうでもありません。というのも、学生によっては最初の段階を履修してから1年もの期間が空いたりしてしまっているらしいのです。特に外国語のクラスは人数制限も厳しく、取りたいのにあぶれてしまうということがあります。従って、連続した学期にわたって続けて履修できるという学生はそれなりに覚えていましょうが、間が空いた学生は「既に習ったもの」だろうとこちらが期待するところの内容を忘れてしまっていることの方が多いのです。

 とはいえ履修を決めた以上はと、公平に点数を付けたつもりです。

 

 合計点があまりに低い場合にはできるだけ部分点をみたり、許容できる文(「~です」で全部済ませようとするなど)であってもあまりに頻出する場合はちょっと厳しめにつけたりとか、うまくバランスをとりました。このあたり、これまで口頭試験をいくつか担当してきたのが、経験として生きているような実感があります。

 

 終わったあと、また別のクラスの打ち上げパーティがあり、お邪魔してきました。これまで一番仲良くさせてもらったクラスでして、学生の名前もほとんど覚えているのはここだけです。例にもれず言語学専攻以外の学生もたくさんいますから、これまでのように頻繁に見かけることも減ると考えるとちょっと寂しいですね。

*1:教科書『げんき』でいうところの第3課までですが、ここまでを完璧に理解していればだいぶコミュニケーションがとれるようになる感が強く、つくづく基本の理解の重要性が思われます。

*2:日本人としては「和食」とか「日本食」という言い方の方が使う感じもしますが、例えば他の国の料理を言及する時には「フィリピン食」より「フィリピン料理」、「フランス食」より「フランス料理」の方がわかりやすいですので、汎用性の問題から「日本料理」を採用しているのでしょう。