日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在132日目:出張ふろしきレッスン

 マニラ首都圏と呼ばれる、いわばフィリピンの中の「都会」*1にはパートナーズが4名派遣されています。僕を含めたこの4人はそういうわけで近くに住んでいますので、2週に1度くらいはなんとなく顔を合わせるのが慣習みたいな感じです。もちろんセブやダバオとかの島に派遣されているメンバーとはそう簡単に会えないわけですが、実はマニラを有するメインアイランドのルソン島でも、北部パンガシナンという地域にも派遣がされているのです。この土日はその地域に遊びに行こうと思っていたのですが、金曜日があまりに忙しく、また夜も若干長引いてしまったので、次回に見送ることとしました。

 で、月曜は月曜で、UPから一番近い派遣高校に行ってきました。この日はイベントでもなんでもありませんが、「ふろしき」の特別レクチャーを頼まれたのです。たまたま月曜日は定休ですから、これは好機と足を伸ばすことにしました。

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  近いとはいっても車でスムーズに行って30分ほどの距離です。授業は9時からのコマで依頼されましたので、8時くらいに家を出ました。間が悪いことにタクシーが捕まらず、仕方なしにジプニー→トライシクルを乗り継いで学校まで行くことに。無用の緊張のためか2時間ばかりしか睡眠がとれておらず、車はちょっと辛かったですがまあ安上がりでよいですね。

 

 きっかり時間通りに到着してパートナーと落ち合い、教室に向かいます。ふだん使っている教室はあまり設備が整っていないとのことですが、ゲストが来るとあってプロジェクターまで使える広い部屋をご用意いただきました。

 ところが、時間になっても生徒が一向に現れません。外を見やると、全校集会のように生徒が地べたに座り、どなたかの話を聞かされていましたが、その中にこのクラスの生徒がいるわけではないとのこと。「パートナーズは予期しないこととの戦いである」というのは、研修で散々言われましたが、大学派遣の僕はここまで意識せずに過ごせてきました。ようやくここにきて「パートナーズらしさ」あるいは「フィリピンらしさ」を味わったような感慨です。

 担任の先生に話を聞いてみますと、どうやら先生の間で連絡が行き届いておらず、生徒は別の教室で映画鑑賞をしているとのことなのでした。その担任の先生も、今日生徒がそこに行くことを聞かされていなかったとかいうことで、すっかり恐縮しきっていました。

 無論僕はまったく気にしていません。

 

 で、しばらくしますとちらほら生徒があらわれまして、それをかき集めるようにして30分のショートレクチャーをすることになりました。

 高校生(年齢的にはほとんど中学生)対象ですから、いつもしていた歴史の説明なんかは省き、有用性だけを簡単に説きます。従来は「るろうに剣心」とか「BLEACH」とかいったマンガを登場させていましたが、今回はなじみ深いであろう「ドラえもん」の「タイムふろしき」だけを採用し、果たしてそれなりにウケはとれたようです。

 この時集まったのはGrade10(高校1年生相当)ということで、比較的”大人”な生徒が集まっていました。人数が20人弱とコンパクトだったこともあって、なんなく巻き方を説明、実践でき、余裕をもって終えることができました。

 

 お昼をはさんで、次はGrade8(中学2年生)です。年齢的に幼いのもそうですが、クラスが50人という大所帯なのも圧巻でした。実はふろしきをやるにあたって、「私ひとりでは手に負えないから来てくれ」とパートナーから言われていまして、彼らを見てその理由が体感できたわけです。

 担任が「静かに!ここはジャングルですか」みたいな注意をしてようやく収まったものの、包み方を説明する段に至ってはもう大騒ぎでした。基本的な「真結び」をやってみる時点で「先生これであってる?」という声がもれなく全員から飛んでくるのです。なるほどこれをひとりで応対しようと思ったらそれだけで終鈴が鳴りそうです。どうにかそれを潜り抜けましても、それぞれ箱とかボトルを巻いてみる時には、全員分に満たない量のアイテムの取り合いが始まるのでした。交代交代でやるようにどうにか指示を出したり、終盤は代表者に前でトライしてもらったりと、無理やり舵を取りました。

 ともあれかの盛り上がりを見ますと、ひとまず「ふろしき」という文化体験としては楽しんでもらえたのではないかと思います。Grade10の感想を見てみますと「バッグの持ち合わせがないときに使ってみたい」とかいうクリエイティブなコメントもありまして、やりがいがあったというものです。

 ちなみにウケがよかったのは、やはり本2冊をカバンのように持ち運ぶ法と、ボトル2本をまとめて持つ法とでした。多少複雑とは言え、それでも覚えられる範囲ですし、「ふろしき」の多様な用途を示す上では極めてわかりやすい例だと思われます。

 

 しかしまあ、僕ひとりであれができるかというとおよそ無理なことで、いちおう授業の形を崩さずにいられたのは現地の先生とパートナーの補助あってのことです。どうにも声が通らないのも含め、まだまだ”先生”になる道は遠いなと感じずにはいられません*2

*1:といっても、日本人から見て実際に「都会」なのはマカティ市くらいでしょうか。ケソン市は「田舎」というよりは住宅地というくらいの繁華と思います。

*2:帰ってからの進路としては、いちおう先生をしたいと考えていますが、この声が通らないのはかなり大きな問題として立ちふさがっています。国語教師にしても日本語教師にしてもこれは大事なことですし、他の道が僕に可能だとはとても思えないのでした。