滞在50日目:花の都のまんなかで
だんだんと忙しい活動が日々を侵し始めました。もちろん僕にとっては喜ばしいこと*1で、1ヶ月もの長きにわたって無聊を託ちていた身分としては、ツケというよりも「お待ちかね」という印象が強いです。
今日は日本文化紹介の一環として、盆踊りをやりました。夏だからという安直な発想によるものですが、踊り好きなフィリピン人に限らず、実際に体を動かすことは文化を感じるうえで非常に大切なことだと思います*2。
先生が日本に出かけて不在となったため、連続した2クラス(いずれも初級)を任されました。コマは1時間半で、実質前後10分くらいは削れるのがお決まりですから、70分くらいの発表が求められたということになります。
盆踊りといってもいろいろありますが、早い段階で「東京音頭」に決めました。僕が唯一踊った経験のある曲だったというのと、それなりにTraditionalな形をお見せする方がよいだろうと思ってのことです。
言うまでもなく学生たちの間ではアニメが人気ですから、アニメの盆踊りをやってみることも考えましたが、公式できちんと振り付けを提示した資料があまりに少なく、僕自身習得できる気がしなかったので、あきらめて見せるだけにしました*3。
ご存知のように、東京音頭の振り付けは盆踊りの中でもかなりシンプルなつくりとなっています。5つのパターンを左右にやって、あとはそれが延々と繰り返されます。
ただ踊って見せるだけでも充分に覚えられる分量ですが、それでは面白くないので振り付けが意味するところについて少し調べたところ、以下のような記述が発見されましたので採用しました。
①手拍子
②山を眺める所作
③満月を象る
④人の波
⑤柳
ここにでてくる景物は、大半が歌詞に登場するものです。これまで、歌詞について注目したことすらありませんでしたが、改めて読んでみますと東京という地域がべた褒めされています。昔踊り方を教わった時に③の満月については聞いていましたが、あとのものについては全くの初耳です。②の「山を眺める」というのも、知らないと動きがしゃんとしないかもしれませんね。どうしても理解できないのは④の「人の波」。歌詞にある「東京繁盛の人の波」に関連しているのだと思いますが、あの所作は人をかき分けているという認識でよいのでしょうか。今にわかりません。
振り付けを再度確認するに際して、以下の動画を大いに参照させていただきました。
聞けば日本舞踊のプロフェッショナルとのこと。さすがといいますか、素人目にも動きが洗練されています。
盆踊りのレクチャーはするとして、さすがにそれだけで70分も使うのは厳しいわけです。もちろん「お盆」の話もしたいと思いましたが、あまり深く話すのは本分ではありませんし、たぶん面白くありません。きゅうりとナスで作る精霊馬の説明は、文化として興味深いだろうと入れることにしました。
で、やっぱり盆踊りを語る上では夏祭りの説明は欠かせまいと、その説明にも少し時間を割くことにしました。いちおう勉強もかねて、「氷」とか「きゅうり*4」「たこやき」といった看板の文字も読ませてみたらよいだろうという算段です。写真は、派遣前研修中に訪れた京都のお祭りで撮ったものを使いました。
賑やかしにと、浴衣を着て発表することにしました。SEIYUで買った安い浴衣ですし、帯の巻き方もあんまりうまくありませんが、少なくともJapaneseを感じては頂けるだろうと思います。研究室で着替えたのですが、いろいろな先生にお褒め頂いて嬉しかったです。(言うまでもなく、褒められたのは浴衣)
前日までにも別にやることがあった関係で、あまり十分な準備はできませんでした。英語でなんというかを筆頭として、もっときちんと調べて内容を詰めておくべきだったと反省しています。
とはいえ学生たちはそれなりに楽しんでくれたようでした。夏祭りのくだりで、思いつくままに祭りの食べものが高いという話をしたら、思いのほか食いつきがよい。日本のストリートフードといえる文化でしょうが、こちらでの安さを考えると破格ですね。
踊りのレッスンは、割合うまくできたのではないかと思います。浴衣だと足元が見づらいので手本を提示するには不向きかもしれませんが、たどたどしい英語でどうにかステップ・手振りを教えることができました。
踊るだけでは単調と考え、歌詞の中の合いの手にあたる「ヤットナ ソレ ヨイヨイヨイ」はみんなで歌いながら踊ってもらうことにしました。僕のもっている音源は5番まででしたので、都合5回これを歌う必要があります。最初はなかなか難しそうでしたが、後半にはちゃんと「ヤットナ……」と歌えていました。
とはいえ3分間同じ振り付けというのはやはり冗長でした。編集するか、もっと短い音源を用意すべきだったかもしれませんし、アニメのとまではいわなくても、もっと複雑な盆踊りを選んでもよかったかもわかりません。
またやはりコンテンツが不足していて、1コマ目については15分も余ってしまったことは大失敗です。授業における時間管理の大切さは、中学校での教育実習で学んだつもりでしたが、やはり予見が甘かったみたいですね。
学生はそれでも楽しんでくれたみたいです。「ヤットナ……」は語感が面白いらしく、終わった次のコマでも口ずさんでいる学生がいたと聞き、やってよかったなと思いました。
正直なところ、踊りとか歌は1時間やそこらの授業だけだとすぐ忘れてしまうでしょうが、「こういう文化があるのだ」と知ってもらえたのは大きな収穫だと思います。と同時に、これこそが日本語パートナーズとしてやるべきことなのだと実感します。
*1:そりゃあ、ある程度の休暇がないと持ちませんけれど、僕はそこそこ忙しくしていないと却って息の詰まる思いをしてしまう人間なのです。
*2:言語習得の分野においてもTPR(Total Phisical Response)という用語があり、体を動かしながら言語を勉強すると定着しやすいと言われています。あくまで感覚としてですが、文化もこれの例外ではなさそうです。
*3:スライドに動画を組み込んだのは「ドラえもん音頭(新版)」と「ポケモン音頭」だけです。フィリピンでのPOKEMON GOのブームを考えると「ポケモン音頭」にしたかったのですが、エンディングの映像では振り付けが完全に示されていないのです。
*4:浅漬けですよね。地域の問題か何かわかりませんが、僕は幼少期にお祭りできゅうりが売っているのを見たことがありません。それとも最近の傾向なのでしょうか。