日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在45~46日目:日本映画を見る

 国際交流基金は、主催や共催という形でさまざまな文化行事に協力しています。といって僕も職員ではないのでその全貌はつかめていませんが、たとえば先日はマニラ首都圏で「人形浄瑠璃」の鑑賞会が開かれていました。残念ながらこれには参加できませんでしたが、浄瑠璃は見てみると案外面白いです*1し、生きているかのような人形さばきは、日本文化として少なからぬ感銘を与えることができたことと思います。

 今週末は「EIGASAI(映画祭)」というものがUPで催されました。これ実は7月からすでに始まっていたイベントなのですが、開催地がいくつか用意されていて、そのうちのひとつ(最後の場所)がUPなのでした。無料で日本の映画(いずれもけっこう話題作)を見られるとあって、連日大賑わいです。

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 上映は1日3本で、13時、16時、19時と、それぞれ違う映画が放映されます。かっちり入れ替え制というわけでもなさそうですが、やはりそれなりに興味のあるものに集中して来ているようです。

 

 僕が行ったのは金曜16時からの回と土曜13時からの回でした。

 

 まず1本目は原田眞人監督『駆け込み女と駆け出し男』です。

江戸時代の縁切寺を舞台に、「駆け込み」をした女性たちの模様を描いた作品ですが、視点が医者見習い兼戯作者志望の男によっているのが面白かったです。医療というのが死という極めてシリアスな問題に絡む仁術である一方、戯作はその苦しみから解き放たれた空想を描く……なんていう素人文学談義はよすとしましょう*2。そういうわけで結構は真剣なのですが、医者見習いの男というのが大泉洋ですから、ところどころは笑えるようにできています。

 話としては非常に面白く見ることができましたが、残念なことに僕には日本史の素養が不足していますので、充分に理解しきれない部分もありました。あの時代のこと、たとえば花町の事情とか当時の戸籍とか、そういうことをもっと知っていたならばより楽しめる映画だったろうと思います。

 原作は井上ひさし東慶寺花だより』とのこと。井上ひさしは『言語小説』くらいしか読んでいませんし、他の作家についても歴史ものはさっぱりでしたので、帰国したら努めて読むようにしたいところです。

 

 2本目は細田守監督『バケモノの子』です。先日日本でも地上波で放送されていた記憶がありますが、うっかり見そびれてしまったのでうれしい機会です。

 冒頭は、両親と離れてしまった少年がバケモノの世界に迷い込み、ある強いバケモノの弟子になるというところから始まります。こういう異世界ものでは「人間は恐ろしい存在」という認識が流布していたりします*3が、この作品においてはそこまで強い向かい風が吹いていない、というのも特徴かと思います。とはいえやはり人間がバケモノの世界にいるのは都合のいいことではなく、反対意見もあるわけですが、少年がバケモノの下で「強く」なるにつれてそれも細くなってゆきます。途中、人間の「闇」とか「穴」といったキーワードが出てきますが、それを乗り越える「強さ」は何に由来するか、というのが作品の大きなテーマなのでしょう。

 観初めてすぐに「また大泉洋かよ!」と気づきましたが、エンドロールを見ますと多くの出演者がタレントなのでした(よく考えればこれまでの細田作品もそういう傾向でしたね)。全体に明るい力が満ちて、面白い作品だったと思います。

 

 2本に共通して言えることとして、観客の反応が非常によいことが興味深かったです。面白い場面で笑うのは日本人もそうですが、哀しい場面では「Oh…」とため息を漏らし、爽快な場面では喝采が巻き起こる*4。『シン・ゴジラ』とかでも声を出していい上映があるらしいですが、そういう雰囲気の中で見る映画もまた格別なものだと思いました。

 すでに何本か映画を見た先生に話を聞いたら、劇中に出てくる置物だったり、仏壇を拝む風習がやはり新鮮に映るとのことです。こういうところから日本に興味を持って、さらにつながりが深くなればいいなぁと思う次第であります。

*1:とか言って実は高校のときに1度見たきりです。演目は「曽根崎心中」だったかな。話はあまり覚えていませんが、迫真の演技(この場合はなんというのでしょうか)に惹きこまれた覚えはあります。高校のときに一通りの伝統芸能を見る機会があったのは、いま考えてみると非常に恵まれています。

*2:いちおう文学部だったわけですが、長いこと文学を論じていませんので手続きを忘れてしまいました。どうやら国文学の専攻に戻るのは厳しそうですね。

*3:千と千尋の神隠し』とか『モンスターズ・インク』みたいな感じです。

*4:フルハウス』とか『ビッグバンセオリー』のようですね。観客を動員しているテレビ番組の撮影も、あんな感じに賑やかなのでしょう。