日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

牧野成一・筒井通雄『日本語基本文法辞典(A Dictionary of Basic Japanese Grammar)』ほか

 本好きですので、フィリピンに来る時にもあれこれスーツケースに詰め込んだ自覚はありました。けれども、いざ数えてみたときに20冊以上詰まっているとは思いませんでした。本当は大岡昇平『野火』とか蜂須賀正氏『南の探検』*1なんていう、フィリピンに材をとった書籍も持ってきたかったのですが、断腸の思いでパートナーズの活動に役立ちそうなものだけに絞ったつもりだったのですが、それでもすごい量です。

 せっかくですので、そうした本も少しずつ紹介していこうかと思います。日本語教育に関わっている方からすれば「何を今さら」とか「こっちの本の方が見やすい」とかご意見あるかもわかりませんが、特に全く経験のない方にはわずかばかりの参考となるのではないかと勝手に思っています。

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 パートナーズでこちらにくるときに、真っ先にいれたのはこのシリーズでした。下から順に初級、中級、上級とレベル別に用法を解説しています。

 この本についてはアマからプロまで誰もが使っている本だと思いますが、分厚さを見ればわかるように、各文法項目についてかなり詳しく記されている良書です。説明がすべて英語で書かれているというのも、殊英語圏で教えるうえでは大変参考になります。

 具体的にどんなことが書かれているかというと、初級版の最初の項目「あげる」はまずこのように解説されています。(便宜上chihariroが日本語に訳しています)

 

やり手(giver)の属する集団のメンバーではないが、おおよそ立場が同等の人に対して、何かをgiveすること。

 

以上のような辞書的解説に続いて、キーセンテンス(どれが主語でどれが目的語かを明示している)、例文、Notesが記されています。Notesには例えばこんなことが書いてあります。

 

「あげる」はIndirect Object(ここでいうもらい手)がIやWeの場合には使用できず、また話者の属する集団のメンバーなど、話者が同調している人物の場合にも非文となる。

 

ざっくりした和訳で恐縮ですが、日本人にとっては「言われりゃそうだ」みたいに気づくことが多いのではないでしょうか。

 

 こうした解説が3巻続きます。類義語の違いなどの記述では、学術的に妥当ではなさそうな部分もありますが、以前も書きましたように「日本語教育」という場に十分な説明となっていますので、逆に言うとどの程度の説明まで必要とされるかを見極める材料にもなるかと思います。

 もちろん辞書ですので安くはありませんが、教える時に絶対役立つことは保証できます。大き目の書店なら1巻くらい置いてありますので、手に取ってみてはいかがでしょうか。

A Dictionary of Basic Japanese Grammar

A Dictionary of Basic Japanese Grammar

 
A Dictionary of Intermediate Japanese Grammar

A Dictionary of Intermediate Japanese Grammar

 
A Dictionary of Advanced Japanese Grammar 日本語文法辞典 [上級編]

A Dictionary of Advanced Japanese Grammar 日本語文法辞典 [上級編]

 
南の探検 (平凡社ライブラリー (570))

南の探検 (平凡社ライブラリー (570))

 

  今日は学校自体が休みになってしまったので、無聊を託つための記事でした。

*1:かつてモーリシャス島に生息したドードー研究家としての側面が、注目されつつあります。今年に入って稀覯本であった『世界の涯』も復刻されましたし、更にもっと最近では『絶滅鳥ドードーを追い求めた男』という伝記も刊行されています。『南の探検』はフィリピン探検記で、鳥類学を探求しながら歩んだ貴重な記録です。