日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在35日目:新学期の幕開け

 とうとう、日本語パートナーズの本丸といえる、授業でのアシスタントが始まりました。今日が初日ということで、柄にもなくわくわくするのを抑え、昨晩は早めに寝付きました。

 といってもちろん1回目の授業ですから、日本の大学でもそうあるように、今日行われたのはオリエンテーションと簡単な導入だけですので、まだあまり出番はありませんでした*1

 とはいえ学習者と話すことができたのは、精神的にかなり嬉しいものがありました。僕が日本語教育を続けたいと思ったのは、学習者と話すのが楽しいからというのがかなり大きな理由となっています。

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 悪しき天候のため、廊下には折り畳み傘がずらりと干されています。

 

 一口に日本語のクラスといっても、当然いろいろなレベルがあります。バックグラウンドがないことを想定した初級クラスもあれば、新聞を読むというかなり高度なクラスまで段階が刻まれています。

 今日は朝から3つのクラスに行きましたが、いずれも最初級のクラスで、つまりはほぼ日本語を勉強したことのない学生が集まる授業でした。

 3クラスは同じレベルとは言え、それぞれ先生が違います。ですからゴールや習得する項目は同じでも、進め方や学生との接し方が大きく異なるわけです。

 

 他の大学はどうなのか存じませんが、UPの1限は7時から始まります*2。早いので学生の集まりはどうかなと思いましたが、ほとんどはちゃんと時間通りに来ていました。

 1限は先に授業がないのでいいですけど、他の授業では実はそうもゆかないのです。というのも、ここの時間割には「休み時間」がいっさい設けられておらず、つまるところ授業間には教室の移動時間すらないのです*3。従って前の授業が少しでも長引いたり、あるいは時間通りに終わっても教室が遠かったりすると、どうしても定時に教室に行くことが難しくなります。先生たちもそれはわかっていますので、なるべく早く授業を終え、少し間を取ってから始めるというのが習わしになっています。

 繰り返しますが、1限はそんな支障もないので容赦なく時間通り始まりました。

 

 日本語を履修しようとしているからには、多かれ少なかれ日本に興味があるわけでしょうが、やはりアニメの人気は強いようです。にしても「最近では『甲鉄城のカバネリ』かな」という発言には驚きました。僕の記憶によれば日本で4月から6月まで放送されていた、新しいものですし、語弊を恐れずに言えば人口に膾炙した作品ともいえません。つまりその学生がこれを好きになったのは、ただ「日本のアニメだから」「話題作だから」という理由ではなく、「この作品が好きだ」という確固たる気持ちがあってのことだと思われます。

 他にもボーカロイドが好きという学生もいて、この曲が好きと歌ってくれた一節は初音ミクの「magnet」でした。ちょっと古いけど、こちらでも通じる文化なのですね。最近のはそもそも僕が知らないので対応できませんが。

 

 あるクラスでは、自己紹介のセンテンス8文を使ってクラスメイトと交流するべく、10人と自己紹介しあってリストを埋める、という活動をしました。いちおう僕も交じって、10人の学生と話をしました。「~からきました」とかは町の名前さえ聞こえれば意味が推測できますが、まだちゃんと数字を習っていないので「23さいです」は理解が難しいようでした。「”2 times 10 plus 3”ということかい?」と、1度聞いてちゃんと理解している学生もいるにはいました。それから、「好きなもの」として「シャーロック・ホームズが好きです」と言ったのですがなかなか通じず、Japanizedされた英語(≒カタカナ語)という意味ではよい例が提示できたかもしれません。

 

 3クラスすべてにおいてそうでしたが、クラスのレベルに対して日本語ができすぎている学生が散見されるのが印象的でした。最初級なので、扱うのはひらがな、カタカナ、基本的な漢字という程度。今日導入されたのも「はじめまして」から「どうぞよろしくお願いします」までの簡単な自己紹介ですから、少しでもちゃんとした日本語の授業を受けた経験がある場合は、おそらく退屈な内容だと思われます。クラスによってはすでにN3を持っていたり、両親の一方が日本人だったりする学生がいましたので、そういうときには先生がもっと上のクラスに行くようアドバイスをしていました。

 履修とかスケジュールの関係*4で上のレベルが取れなかったのかもしれませんが、それにしてももったいないです。逆に言うと、それだけ細かいニーズにこたえる体制が大学に用意されているわけで、言葉のレベルのよりよい上げ方はここにヒントがあるのかもしれません。

 

 授業の開始と同時に、「この日はいないので文化紹介(体験)をやってほしい」「文化発表で何をやりたい?」というご依頼が舞い込んできました。機会がぐんとふえて嬉しい一方、自由度が高いのをあまり得意としていません*5ので、しっかり考えなくてはいけないなと思います。

 でもこうやって、多少忙しくやっているくらいが性に合っているのか、却って落ち着く心持です。

*1:とはいいながら、今日行った授業についてはすべて90分きっちりやっていました。日本の大学で初回から90分やったら、たいてい苦情が聞こえます。

*2:これが実につらい。どうにかして11時に寝て6時に起きるリズムを構築したいものですが、夜を過ごさないのがなんだかもったいないように思われて、なかなか眠れないのです。1日を有意義に過ごしていない証左でしょうかね。

*3:もっというと「お昼休み」もないので、昼食をとろうと思ったら、空きコマを作るか授業中につまむかしか方法はありません。時間割ってそもそもフルでとれるものではありませんから、学生からすれば効率の良いシステムかもしれません。ただ先生側からすると、うまく休む時間が取れません。

*4:「この授業をとらないとダメ」みたいなことはなくもないですが、テストをパスすれば上のクラスに飛び級もできるようです。そのための履修相談が、先週のごった返しだったのだなぁと思い返しています。

*5:発想に乏しいのは、僕にとって最大かつ致命的な欠点だと思います。自分で「こういうの面白いんじゃない?」とか「こうしたら面白いかも」と言いだすことがどうにも苦手なのです。若いころはもう少し柔軟に発想できていましたが、これを乗り越えなければ僕に明日はありません。