滞在32日目:先生向けの研修を見学
JFM(国際交流基金マニラ支部)で、高校の日本語の先生方を対象とした研修が開かれるというので見学に行くことにしました。前日に、おそらく食べすぎによる嘔吐から学校を早退していまして、朝方は様子見と思いましたが、どうにかシャキッと歩けそうだった*1ので1時間ほど遅刻してマカティへ。
研修自体は月イチくらいの頻度で開かれているようですが、今回のは少し特別で、日本での研修に参加した先生方の報告会も兼ねて行われました。
前半は、先生方の経験(≒日本語力)ごとに分かれての研修で、高校で使用される『enTree』を中心として、教材をどのように使うと効果的であるかがディスカッションされていました。同じ教科書を使っていても、「教科書で教える」という観点に立つとすれば、アクティビティの順序や身につけさせる能力なども先生ごとに異なってきます。そのなかでよりよいものを目指すとなったら、この意見交換は大変有意義なものと思います。
僕の派遣先は大学ですので『enTree』を使うことはありませんが、今日の研修を見ていて思ったのは、これが単に日本語を教える教科書ではないということでした。正直なところ、日本語を教えるマテリアルとしてみると、です・ます形ではなく辞書形を使っている*2他、不充分な点も散見されます。しかしながら、ここで学ぶことのできるのは、言語的アイデンティティ、日本との比較におけるフィリピンの姿、自分の生活の見直しなどなど、およそ小学校の「生活科」ともいえる内容なのです。つまり『enTree』は、日本語を通じて社会的学習を促すためのテキストと言うことができるでしょう。
すでに使っている方々からすれば自明かもしれませんが、僕からすればようやく理解に至った事実でした。(研修でも習ったのですけれど、あまりピンと来ていませんでした)
スタバでお昼を食べたのち、午後は日本に行ってきた先生たちの発表。研修内容は、言葉とか文化の授業を受けたりしていて、僕らが大阪で受けたものに近いような印象があります。違う点は、外に出て実際に何かを体験する場が多く設けられていることです。拠点が浦和であるにもかかわらず、京都のお寺群を見学したり、和紙染、風鈴の絵付けをしたりと、日本人から見てもそうそうできない経験が楽しそうでした。
この、実際に文化の楽しみを知っておくということは言語教育者としては欠かせない経験だろうと思います。日本だと文化らしい文化が豊富な気もしますが、たとえば英語を教えようと思ったらアメリカとかイギリスとか、そういう地域の文化の楽しさや楽しみ方を知っていなければ、言葉を学ぶ楽しさを伝えることはできないでしょう。言葉はあくまでコミュニケーションツールですから、動機をはっきりさせて初めて意義を持つと言えます。
最近、なぜ自分が言葉の世界に片脚を突っ込んでいるのか考えることがよくあります。英語は努めて勉強してきたつもりですが、どうしてそんなに熱心に、というと単純なる興味と言うほかなさそうです。違う言葉でいろいろな人とコミュニケーションをとることに、もともと何か惹かれるものがあったのかもしれません。