日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在30日目:ようやくの仕事始め

 ようやく仕事です。といっても授業のアシスタントではなく、ネイティブスピーカーとしてオーラルテストの面接官を任されました。社会人がほとんどの学外向けのクラスのようで、基本的な表現を学んだところでの期末試験です。

 初め安請け合いしたときは、僕の隣に先生も座っていてくれるのだろうと思っていたのですが、あとから確認したら別室にいるとのことでした。というのも、試験は筆記と同時進行で行われ、筆記の最中にひとりずつ面接試験に呼び出されるという形式だったのです。そう聞くと途端に自信がなくなってくるのが人の性といったところでしょうか……。

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 難しいのは面接自体というよりも、学習者ひとりひとりに点数を付しつつも適切な日本語で会話し続けなければならないということです。元来器用なたちではありませんので、一遍に両方こなせず、どちらかが止まってしまうのではないかという懸念がありました。

 

 面接は大きく「自己紹介」と「Q&A」の2部に分かれていました。

 

 自己紹介の部では「はじめまして」に始まり、「よろしくお願いします」まで5つの文をいうことが求められました。10点満点で文法的なミス(「はじめました」みたいな)があったら1点ずつ減点していくという方針です。5文として言うべきことは事前に与えられていて、学習者はそれを暗記してくることが予想されましたが、たとえば「よろしくお願いします」が欠けて4文しか言わなかったら8点満点になってしまいます。

 Q&Aでは「なんさいですか」とか「たいていなんじにおきますか」とかいった問いについて、各3点満点のこちらも減点方式でした。「減点」といってもこちらは文法的ミスだけでなく、どうしても質問が理解できなかったり的確な答えが出せなかったりした場合に、どれだけ僕の方から助けを出すか、というのも判定基準とされました。

たとえば、「(学習者の所持品を指さして)それはだれのですか」が通じなかった場合に、「(自分の時計を指さし)これは私のです」と例示してみたあとに答えられたら2点、「Whose is this?」と英訳して答えられたら1点、という具合になります。

 以上の判定基準はむろん先生から指示されたことですが、「思うようにやっていい」とお達し頂きましたので、「助けの度合」でうまく公平に判断することとしました。

 

 自己紹介のパートについては、やはり一番話しやすい話題でもありますし、自分でいうべきことをコントロールできますから、みなさんよくできていた印象です。それぞれのお話を聞いているのがあんまり楽しいのでつい深入りしそうになってしまいましたが、曲がりなりにもテストですし、軽い相槌にとどめました。

 対してQ&Aのパートはやっぱり「聞く」と「話す」の両方が求められ、且つある程度までは的確な文を言うまでは先に進めませんので、みなさん難儀していました。

 特に大勢の方が躓いたのは「毎日あさごはんを食べますか?」という問でした。正答としては「はい、食べます」と言えたら3点で、「はい」だけだと2点を想定していました。しかし実際にやってみると、「ご飯と卵と….」という具合に、「何を食べたか」を言及してしまう学習者が多いことに気づきました。直前の質問が「なんじにおきますか」だったこともあってか、シンプル且つ的確な答えを出せた方はほとんどいませんでした。「毎日7時に食べます」「毎日7時にあさごはんを食べます」という文があっても、後者の方が答えとしての許容度は若干高いような気もします。

 それから、意外だったのは年齢の言い方です。厳密には数字の言い方ですが、たとえば「23才です」と言いたいのに「じゅうにさんさいです」と言ってしまう方が複数名いらっしゃいました。経験の浅い僕としては初めて出会う間違え方だったので、母語の影響もあるのかと思いましたが、タガログ語も日本語同様「2×10+3(dalawampu't tatlo)」と言いますので、理由にはならなそうです。

 ともかく全体のバランスを見て、できるだけ偏ったり厳しすぎたりしない採点を心掛けたつもりです。責任が伴うとあって、やっぱり難しいなぁ。どうにか全員合格ラインは達成できたっぽいので、ひとまず胸をなでおろしました。

 

 テストが終わってから、先生と学習者のみなさんと日本食のレストランへ行きました。なんと日本人のオーナーがなさっているお店で、メニューも多岐にわたっています。

 あんまりお腹がすいていたので、牛丼とお好み焼きを注文。セットのみそ汁も合わせて、ちゃんと(と言っては失礼ですね)日本の味でした。あまり日本食を恋しく思ったりしないたちなのですが、いざ食べてみると味のなつかしさが染みわたりますね。

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 食べている最中にも、いろいろ質問が飛んできました。「吉本ばななを読んだことはあるか*1」「専攻は」「結婚はしているか」などなど……。殊なぜフィリピンを選んだのかはだいぶ追及されました。「選択肢の中で英語が使えるほとんど唯一の国だったから」「それから、前に来たときに気に入ったから」という風に答えたのですが、「フィリピンの何がそんなにいいんだい?」と自虐的なのには恐縮しました。

 うーん、答えにくいですね。物価こそ安けれ、確かに暮らしの便利さを考えたら日本には遠く及ばないわけですが、とはいえまた来たいと思うだけの魅力が僕にとっては充分に感じられました。人、でしょうか。とにかくよくしていただいている日々ですので、よし言葉は通じなくても楽しく過ごすことができるのです。

*1:残念ながら未読です。あくまで本は集めるのが趣味だから、というむちゃくちゃな理由にあぐらをかいて、サイン本は3冊持っているのですがタイミングがなく『キッチン』すら読んでいません。自分でも、海外に出る日本人としてどうなのかと思います。