日本語パートナーズ記@マニラ

日本語パートナーズ フィリピン3期として9カ月間の活動を経験。大学では国語学を専門にやっていましたが、キャリア的には背水の陣。

滞在22日目:日本語クエスチョン

 しつこく言いますが、僕の赴任している学校では、まだ学期が始まっていません。今年からタームが変更されたそうなのですが、この空白の3週間をどう過ごすべきか、途方に暮れたまま2週間が経過してしまった感があります。

 とはいえちまちまと準備はしていて、文化発表でどんなネタをやるか、今後どのような研究をしてみたいか、調べたい項目などなど、アイデアだけは蓄積させています。

 授業こそないものの、日本語の先生からすでに2点ほど言葉に関する質問を受けたので、すこしそれについて書いておきたいと思います。(もしかしたらシリーズ化するかも)

 

 

 

①「~しようと思っています」と「~するつもりです」の違いはなに?

 これは先週だか先々週だかに聞かれたものですが、さすがにパッとは答えられませんでした。類義語の違いについては、殊大学で教えているとよく聞かれる質問のひとつだと思いますが、日本人にとってこれほど答えにくいものはないのではないでしょうか。

 

 類義語を説明するには、まず2者の意味として重なっている部分を明らかにして、その上で違いを言及する必要があります。ただし、それを日本語学習者に説明するとなると、その違いが文をつくるときにどう具体的に表れるか、という形に落とし込まなくてはなりません。要するに、学習者が類義語について知りたいのは、「どっちが丁寧か」「この場合どちらが自然か」「より程度の大きいものはどちらか」という実用的な違いなのです。

 例として、「とても」と「すごく」という類義語のペアを想定します。妥当性はさておき、これらの違いを研究した結果として、「とても」はよりニュートラルで、「すごく」は話者の感情がこもっている、といった結論が得られたとしましょう*1。これを日本語学習者が聞いたところで、理解はできたとしても具体的にその違いをどう用いたらよいかは難しいところだと思います。ですので、「とても」「すごく」の違いは、と問われたときに無難な回答は、「とても」が丁寧な表現で、「すごく」はより丁寧度の下がる表現、という形になってしまうのです。学問的に正しいかどうかよりも、運用のレベルで十分な違いを言及しなくてはならないと思います。

 

 で、本題ですが、まず共通点は「真偽未確認の自分の動作について真と仮定」となるでしょうか。もっと簡単に言うと、まだやってない動作をやるものとして言及しているということです。

 肝心の違いについて、データ的な確証はありませんが、あくまで印象として言うと、「しようと思っている」は発話段階での意志に焦点を置いていて、「するつもりだ」はそれ以前から確立していた予定に、その動作が組み込まれていることを取り立てているのではないかと思います。これに沿って言うと、以下のように違ってくるのではないでしょうか。

 

 「先生、明日は学校にいらっしゃいますか?」

   (a)「来ようと思ってるよ」:あくまで現段階での気分として

   (b)「来るつもりだよ」:学校でやること(仕事)がある

 

まだ説得力に欠けますし、学習者にとって有用な説明かどうかは何とも言えませんが、ともかく思いついた答えとして、以上を提示したのでした。ご意見ございましたら頂戴したい次第です……。

 

 

②「予定する」って言う?

 前項に比べて小さな問題かもしれませんが、これは今日、ある先生が日本の大学とメールのやり取りをしていた時に聞かれたことです。先生の言いたい内容は、先方を交えた「meeting」が「at 15:00」の「予定」である、というものでした。

 その場合のセンテンスとして僕が提示したのは「ミーティングは3時を予定しています」でした(非文じゃないですよね?)が、先生は「3時」の部分を不思議がっている様子でした。

 考えてみますと、たいてい時間を指定する場合はニ格で表されます。しかし、この文章においてニ格を使いますと、若干文意が違ってきます。

 

  (c)ミーティングは3時予定しています。

  (d)ミーティングは3時予定しています。

  (e)ミーティング3時予定しています。

 

どれも非文ではないと思いますが、(c)は比較的平坦な言及で、(d)は時間を強調、(e)はミーティングそのものを強調しているような感じがします。つまり(d)は「ミーティングは何時の予定ですか?」の答え、(e)は「今日の午後、何か予定ありますか?」の答えにそれぞれふさわしい形だと思います。このあたりはむしろ係助詞「は」の「主題を取り立てる」はたらき、あるいは「既知の事実について言及する」はたらきによるところもありましょうが、あまり深く考えないこととします。

 やはりこの場合は、すでにミーティングの存在は自明ですので、表現としては「ミーティングは3時を予定しています」が自然なように思えるのですが、根拠をうまく提示できませんね……。

 

 

 こういう質問が、これから連発されそうな気がします。いちおうそのための文献を持ってはきた*2のですが、どれだけ対応できるかわかりませんね。あるいはここで苦汁をなめることが、今後の人生でプラスになることを願っています。

*1:それらしいことを書いていますが、実はこの結論、僕が学部3年のときにレポートでとりあげて得られたものなのです。いちおうコーパスからのデータを収集し、エクセルで分析したのですが、当時はまだ客観的記述を意識していませんでしたので、この結論も印象に依っている部分が大きいと思います。

*2:持ってきたスーツケースは23kg×2つの制限ぎりぎりまで詰め込みましたが、10冊超の本さえなければ、もっと楽に入国できたことだろうと思います。ここだけの話、手荷物はやはり本のせいで重量オーバーしていましたが、ごまかすことができました。